アール・ヌーヴォーの頂点に君臨したとも言える、Mucha(ムハ)。
フランスでの活躍によって日本では「ミュシャ」の呼び方が有名であるが、チェコ人である彼の名前を正しく読むと「ムハ」となる。
そんな彼の大作「Slovanská Epopej(The Slav Epic スラヴ叙事詩)」が、いよいよあと一ヶ月程で国立新美術館でお目見えすることになった。「ミュシャ展」3月8日〜6月5日において展示される。
このムハの大作を一足先にご紹介しよう。
この作品は1928年のチェコスロヴァキア共和国独立10周年に合わせて制作され、プラハ市に寄贈された。しかし巨大であるため、数年前まではムハが生まれた町の近く「Moravský Kurmlov(モラフスキー・クルムロフ城)」に展示されていたという。
2012年からはチェコの首都・プラハの「Veletržní palac(ヴェレトゥルジュニー宮殿)」で常設展示されるようになった。現在は日本での展示の準備中なので、残念ながら見られない。
収蔵する美術館はプラハの中心部から少し離れた所にある。宮殿という名が付いているが、ずいぶんと真四角で現代的な建物である。
「スラヴ叙事詩」以外のムハの作品を含め、近現代のチェコの美術品が展示されているので、一番上の階から見て回ろう。
肝心の「スラヴ叙事詩」は一番下の階、受付の真横にある扉から入った巨大な空間にある。
全部で20点。約8メートル×6メートルにもなる巨大なカンバスが天井の高い部屋に並んでおり、その存在感に圧倒されてしまう。
この作品は連作となっており、番号が振ってあるので順番に見ていく。
最初の1から10が古代から始まるスラヴ民族の歴史を描いたもの。残りの11から20はチェコ人の歴史に関する物語だ。
ムハはこの「スラヴ叙事詩」にスラヴ民族と、故郷チェコに対する熱い想いを込めて描いた。ひとつひとつじっくり見れば、その当時の人々の悲しみや喜び、歌などが聞こえてくるようだ。
力強く、またムハらしく美しい色合いにしばし時を忘れて見入ってしまう。
巨大な作品でもあり、チェコ国外にこの作品が展示されるのは今回が初めてである。
混雑は予想されるが、是非見て頂きたい作品だ。
(田原昌)