ディスカヴァー・トゥエンティワンが12月23日(金)、『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』を刊行した。ビジネスに活かせる本物の「アート思考」について書かれたユニークな一冊だ。この年末年始に読破してみては。
画廊視点の『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』
いま、「アート」に注目が集まっている。たとえば2017年には、レオナルド・ダ・ヴィンチ作といわれる絵画『救世主』がオークションに出品され、約510億円で落札された。これは、絵画の価格として史上最高額だ(*1)。
2021年には、正体を明かさない覆面アーティスト、バンクシーの作品『愛はごみ箱の中に』が約29億円で落札された。この作品は2018年のオークションで、落札されると同時に仕込まれたシュレッダーが作動して絵が裁断され話題となったものだ。当時は約1.5億円で落札されたので、わずか3年で価格がおよそ19倍となった。
このように、資産性の高いアートの価格指数は株や不動産よりも値上がり率が高く、富裕層の間で人気が高まっている。しかし、アートは価格だけで判断するべきものだろうか?
このところ、アートの経済的側面ばかりがクローズアップされているように見えることもあるだろう。しかし、本来アートは言葉で言い尽くせないような、見ることで感動や喜びがもたらされる審美的価値が本来の価値である。そして、それが社会的な制度として広まることで美術館が造られたり、教育にも取り入れられたりするなどの社会的な価値を獲得してきたという。
同書では、東京・京橋に画廊を構える著者が、アートの経済的価値に焦点を当てて、アートの歴史を紐解き、アートのもつ価値の転換がいつどのようにして起こったのかを、アートとビジネスの狭間に立つ美術商の視点から読み解く。
アートもビジネスも虚構である
歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、著書『サピエンス全史』で、ホモ・サピエンスと呼ばれる現生人類がほかの人類との競争に打ち勝って繁栄することができた理由を、虚構を作って信じる能力が高かったからだとしている。ここで言う虚構とは、宗教や金銭、国家のことだ。
「神のために戦う」とか「国家のために戦う」という虚構がなければ、協力し合って敵に立ち向かっていくことができない。しかし、ホモ・サピエンスのみが唯一宗教や国家を信じて、支配地域を広げていった。ハラリ氏はこれを「認知革命」と呼んでいる。
アートやビジネスは虚構であるとしても、その虚構の起源は古く、どちらも人間の根源的な欲望と深く関わっているのだ。アートは多くの人が求めるものであったがゆえに、ビジネスと結びついて、高度に発展してきたのだ。
アートとビジネスの共通点
アートとビジネスには大きな共通点がある。それは、どちらも虚構でありながら、その根源に人と人とのつながりに欠かせないコミュニケーションを抱えているということだ。
アートは、作り手が作品に込めたメッセージを観る人が読み解くことでコミュニケーションが生まれる。ビジネスでは、顧客が求めるモノやサービスを提供することで、その意義を見出した顧客とのコミュニケーションが発生する。
アートが人々のあいだで、どのようにして経済的価値をもつに至ったかを見ていくと、アートとビジネスの成り立ちは驚くほど似ているのだ。
VUCAの時代(*2)には、合理的で冷静なロジカル思考だけでは限界がある。アートもビジネスも、独自の考え、独創性、革新性がなければ生き残れない。アートを理解することはビジネスにも活きてくる。特に、人間の情緒を理解するのには、アートは最適なツールだ。
『画商が読み解く 西洋アートのビジネス史』を通じて、本物の「アート思考」を手に入れてみては。
ディスカヴァー・トゥエンティワン 公式WEBサイト:https://d21.co.jp
(IKKI)
*1 2022年12月現在
*2 Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を合わせたビジネス用語。今後の予測が難しい状況を指す