疫病や厄災退散、織物の神様を祀り、また「玉の輿」の逸話で女性に人気の「紫野今宮(いまみや)神社」。4月には「やすらい祭」が開催され、多くの尊崇を集めている神社だ。
中心部から離れているお陰でとても落ち着いていて、つい行きたくなるのである。
本社は健康や良縁祈願にご縁があり、その隣の「疫社」は素盞嗚尊(すさのをのみこと)を祀っている。今宮神社の始まりが疫病や厄災退散を祈ったお社とのことであり、京都の三奇祭のひとつとして数えられる「やすらい祭」はこの前で踊られる。
この日は少し寒かったが、あちこちで梅が咲いていて、ふとした時に香って春らしさを感じる。落ち着いた色合いの多いこの神社の境内に、まさに花を添えるような美しさ。「いとを(お)かし」と、平安時代の風流というのはこの様なものかと思う。
この神社は中心部から離れているのに、いつも人がお参りに来ている。特に「玉の輿」にあやかりたいという女性に人気なのだが、それ以外に楽しみがもう一つある。
それが、お参りを済ませてから立ち寄りたい、門前の「あぶり餅」だ。
神社の正面の楼門をくぐったときは分からないのだが、東門を出ると、「かざりや」と「一和」という2つのあぶり餅屋が向かい合わせで我々を待っている。
どちらも店構えが古く、趣があっていい。両方から声をかけられて困ることもあるが、梯子する人たちもいるのでチャレンジするのもありだ。
どちらがお勧めということもなく、大きさも数も値段も同じ。ただ、餅に塗られている味噌の味が若干違うので、お好みや気分で決めるといいだろう。
今回は「かざりや」の方でほっと一息。寒かったので熱いお茶が嬉しい。
あぶり餅はいつものように優しい甘さと、焼いた餅の香ばしさが合わさって幸せな気分になる。お腹いっぱいになるわけでもなく、ちょうどいい量なのもありがたい。
このあぶり餅を食べ終わる頃には元気が出て、また気分良く紫野の地を歩く。どんな季節でも訪ねたい、京都の名所の一つである。
(田原昌)