ツーリングデートの新定番か? 誰もが振り向く3輪バイク「CAN-AM SPYDER」試乗記

どこまでもいけそうなRT

北米で高齢化したライダーの注目の的となっているツーリングタイプのRT。デザインは重厚感にあふれ、まるで恐竜のようだ。

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大きなウィンドウスクリーンは電動で上下動が可能、適度な風を受けたければ下の位置を、より大きな風防効果を得たい場合は上げるとよいだろう。

このウィンドウスクリーンの効果は絶大で、下の位置にしていてもジャケットの前面に受ける風はほとんどなく、まるでオープンカーのように巻き込む風が背中に当たるのみ。もちろん、解放感はオープンカーを大きく上回ることは言うまでもない。

着座は自然でステップはシートから真下となる足元にあり、ブレーキペダルは上から踏むタイプだ。ハンドルバーも近くて操作しやすい。

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RTの美点は、そのツーリング性能の高さにあるだろう。フロントトランクに加え、リアにはセンター、サイドとさらに3つの収納スペースを確保している。

そして、ゆったりとしたタンデムシートの後ろにあるトランクは背もたれ代わりにも機能し、同乗者も快適にオープンエアーを楽しむことができるのだ。

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自立する3輪構造は足が地面に届かなくても安心だ。特に、低速での取り回しで絶対に転ぶことのない安心感は、足腰が弱まったライダーには大きな魅力となる。

それでいて約459kgの車体に1330cc 115馬力エンジン、6速セミオートマチックトランスミッションを組み合わせるのだから、遅いはずがない。簡単に言えば、軽自動車の2/3の車両重量に排気量が倍、3倍速くなると想像してもらえばいいだろう。

低速から盛り上がるトルクフルなエンジンとあいまって、どんな回転数であってもアクセルを捻るだけで風を切って加速していくのだ。

誰が乗ってもカッコイイ F3

日本に先ごろ導入された最新モデルF3は、ウィンドウスクリーンのないネイキッドタイプ。

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試乗車は上級モデルのF3SでRTよりも約70kg軽量の約386kgの車体に同じ1330cc 115馬力エンジン、6速セミオートマチックトランスミッションを組み合わせる。

着座はアメリカンタイプでステップは前方向、足を投げ出して乗る。ブレーキペダルはそのため、前へ押しこむタイプ。ハンドルバーはRTよりも遠く、手を伸ばして操作する。

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走行感覚は鮮烈だ。RTよりも軽量のため、加速感はより強い。気を許すとあっという間に法定速度を越えてしまいそうになる。風を直接身体に感じて走るのは爽快そのもの。

これは大排気量のネイキッドバイクに近い走行感覚だが、バイクと違いフロントが浮いたり、ハンドルにつかまってないと振り落とされる心配は無用で、安定感がある。前2輪の3輪は重量バランス的にも優れており、フロントの接地感が薄れないのだろう。

風防のないデザインは低く、地面を這うようなスタイルで、3輪という形状とあいまって街ゆく人すべてを振り返させる。男性が乗ってももちろんカッコイイが、小柄な女性が乗っていたとしたら、より注目されることは間違いない。

ツーリング・デートに最適なのは?

2輪だと、後ろに人を乗せることをためらうライダーもいるだろう。特に2輪は速度を出していない低速域が不安定で、立ちゴケの可能性をぬぐえない。

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一方、このCAN-AM SPYDERは自立する3輪、クラッチレスのセミオートマで低速走行も楽々なので、タンデム走行のハードルは一気に下がる。

今まで二輪でしか味わえなかったオープンエアーの解放感、乗車感を安心、安全に味わえるのだ。むしろ、この楽しみをたくさんの人に味わってほしいと思うほど。

もしデートに使うとしたら、RTとF3のどちらのタイプがいいだろうか?

ツーリングタイプのRT、というのが正統派なのだが、ここであえてF3をオススメしたい。

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理由は……男女の密着度が違うため。腰に手を回してしっかりと身体をホールドして乗るのがF3で、一気に親密になれるチャンスだ。

ツーリングタイプのRTはタンデム走行に適しているが、背もたれに身を預けてしまうので熟年夫婦や親子といった「まったり」したい関係に向いている。

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さらに言えば、F3は女性が乗っても似合う。最近ドライブデートで女性が運転し、男性が助手席というのを見かけるが、この3輪バイクが普及すれば、男性がタンデムシートで女性にしがみつくという姿が珍しくない未来がくるかもしれない。

新しいようで懐かしい

最初にこのCAN-AM SPYDERに乗って道に走りだしたとき、思わず笑いがこぼれてしまった。何と言うのだろう、子どもの頃に遊園地で乗った乗り物のような楽しさがあったからだ。

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乗り物は身体の拡張機能の側面がある。普通の人間が速く走ったとしても、時速10km程度、マラソンをしたとしても数10kmを走り切るのが限界だ。だからこそ、馬に乗ってより速く、より遠くへと足を伸ばした。

バイクや自動車はこの馬の進化系である。洗練され、都市化されてすっかり野生味を失ってしまったが、CAN-AM SPYDERに乗り、改めて「楽しいから乗りたい」という本来の欲求を思い出したのかもしれない。

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ボートの世界では釣りを目的としたフィッシングボートに対して、クルージングを目的としたプレジャーボートという呼び方がある。「プレジャー」、楽しみを目的としたバイクがあってもいいだろう。しかも、安全で扱いやすいというのは新しい価値だ。

その意味で、CAN-AM SPYDERは楽しみのための乗り物、という位置づけでいい。おそらく買う人は他にも自動車やバイクを持っている人で、さらに新しい楽しみを見つけたい、いや見つけてしまったからこそ、CAN-AM SPYDERに魅了されるのだと感じる。

他のなにものにも似ていない、新しくも懐かしい乗り物、3輪バイク CAN-AM SPYDER。IGNITE読者の方にもぜひ一度体験してほしいものだ。
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(野間 恒毅)