今や世界的に人気の高い浮世絵師・葛飾北斎。今年は生誕260年という事で、国内外で特に注目を浴びている。
そんな北斎と、彼に学び自らの画道を模索する弟子たちの魅力を「師弟対決」という形で探る企画展が、「すみだ北斎美術館」で始まった。
■北斎と弟子
北斎が、江戸の浮世絵師を代表するビッグネームであることはよく知られているが、孫弟子も含めて200人にも及ぶ弟子がいたことはあまり知られていない。北斎は弟子に手取り足取り指南をするタイプではなかったようだが、彼らの能力を引き出し、多くの名手を育てたようだ。
今回の企画展では「すみだ北斎美術館」の館蔵品から選りすぐり、北斎と弟子20名が同じテーマ(モチーフ)で描いた作品を展示し、両者を比較する中でそれぞれの画風の特徴や影響関係に迫る。
弟子たちがどのように影響を受けているのか、またどういった独自の表現をしているのか、北斎の魅力も含めて鑑賞していこう。
■北斎と弟子の芸術バトル開幕!
北斎とその弟子たちの名勝負を、「1章 人物、2章 風景、3章 動物、4章 エトセトラ」の4つのテーマごとに構成。
同じモチーフやテーマで描かれた作品を、隣り合わせに展示しているので比較鑑賞することができる。
■1章:人物
北斎は美人画を始め、江戸の市井の人々から歴史上の有名人まで、様々な人物を生き生きと描いている。そんな北斎の描く人物の表情や、人物の姿勢の描き方を弟子たちがいかに取り入れたのか窺い知ることができるコーナーだ。
北斎の三女・お栄である葛飾応為(かつしかおうい)は、北斎も認めた美人画の名手。練香を作る優美な女性の指先の表現など、北斎の柏餅を作る女性と見比べてみよう。
■2章:風景
「冨嶽三十六景」など、それまで人気のなかった風景画を一気に人気ジャンルにまで押し上げた北斎。彼の波や水の表現力などを学んだ弟子たちが、そのまま忠実に表現しているのか、それともひと工夫加えて自分らしい絵にしているのかが見所。
葛飾北斎「諸国瀧廻り 美濃ノ国養老の滝」と、同じ滝を描いた魚屋北溪(ととやほっけい)の「養老の滝」。魚屋北溪は直線を使って一気に流れ落ちる水の表現を、北斎に倣って描いている。どちらも勢いよく流れ落ちる滝の表現が素晴らしい。
■3章:動物
誰もが絵を描くためのお手本として使える『北斎漫画』。猫や犬、鳥などの身近な動物から、想像上の動物までを描いたこの本から、弟子たちは巧みに取り入れて自分たちの絵の中に描いている。
例えば、猫をモチーフにした作品がある。北斎と魚屋北溪、そして葛飾為斎(かつしかいさい)の3人の作品を見比べると、背中を丸め、首にリボンをつけたブチ猫の姿がそっくり。柄は少々違えど、表情まで似ている北溪と、顔の描き方が違う為斎の違いが見られる。
また、鳥について見てみると、二代葛飾戴斗(にだいかつしかたいと)は師匠である北斎に非常に忠実だ。
■4章:エトセトラ
江戸期に庶民の間で流行った「読本(よみほん)」。その挿絵を手掛けた北斎の生き生きとした場面の表現力を、弟子たちはどのように学んだのか。
雷や閃光、幽霊などの表現の仕方がどのように似ていて、またどんなアレンジを加えているのか。小説の挿絵にしては非常に細かい作品だが、北斎と弟子、両者の表現を見比べてみよう。
・雷:北斎VS葛飾北岱(ほくたい)
・閃光:北斎VS二代葛飾戴斗(たいと)
・幽霊:北斎VS葛飾北明(ほくめい) ほか
■「北斎のアトリエ」再現模型
AURORA(常設展示室)では、北斎の弟子・露木為一(つゆきいいつ)が描いた「北斎仮宅之図」(国立国会図書館所蔵)を元につくられた「北斎のアトリエ」の再現模型を常設展示している。晩年の北斎と応為の制作の様子がみられるので、ぜひ立ち寄ってみたい。
3階が師弟対決の企画展示、そして4階は常設展示となっている。講演会やワークショップなどもあるので、HPを確認してみよう。
幅広いジャンルに渡って描いてきた北斎の魅力と実力を、弟子たちの作品を通して改めて知ることができた。たっぷりと時間をかけて、見比べてほしい。
すみだ北斎美術館企画展「北斎師弟対決!」
会期:2020年2月4日(火)~4月5日(日)
前期:2月4日(火)~3月8日(日)/ 後期:3月10日(火)~4月5日(日)
※前後期で一部展示替えを実施
休館日:毎週月曜日 ※ただし、2月24日(月・振替休日)開館、2月25日(火)休館
観覧料:1,000円(一般、個人)
URL:https://hokusai-museum.jp/taiketsu/
(田原昌)