旅先では早朝の散策が楽しい。特に観光客で賑わう古都では明け方の人気が少ない時間帯は空気も澄んでいるようで街並みや歴史ある建造物が清々しい姿で迎えてくれるよう。
拝観料の必要なところでは中に入っての拝観はできないが、朝日を斜めに受ける建物など普段見られない景色をじっくりと拝見できる。
ならまちに宿泊した翌日、朝食前に奈良公園まで散策に出かけた。
宿から街中を歩いても人影はほとんどなく、神の使いである鹿がそこここに見受けられるのはこの辺りでは日常のことだろう。
道標が示すように、細い路地を進むとやがて猿沢池に出た。
周囲360メートルの猿沢池は奈良八景のひとつで、水面に五重塔が映り込む風情ある景色が楽しめる。
池の周辺に並ぶベンチにはまだ座る者はいないが、日中、歩き疲れた観光客が休憩するにもいい場所だ。
興福寺へと続く階段「五十二段」から悠々と鹿が下りてきた。
鹿とすれ違い階段を上ると五重塔と東金堂(とうこんどう)、左手に南円堂(なんえんどう)が見える。
人けのない境内の散策を楽しみ、奈良公園へと向かった。
奈良公園の芝生広場へと戻る鹿が横断歩道を並んで渡っていた。近隣の住民には普通の光景なのだろうが観光客としてはついカメラを向けてしまう。
奈良公園はすでに紅葉の真っ盛り。多くの葉を落とした樹木もあり、赤い絨毯が美しい。
広場ではやはり鹿がのんびりと草を食んでいる。
園内の紅葉は朱色や黄色、えんじ色、橙色、赤茶色などさまざまに色づき、目を楽しませてくれる。
朝日がいよいよ上がってきて公園内の樹々に光を投げかけ、神々しい景色が鑑賞できた。
(小椚萌香)