旅先で猫に出会うと、無性に嬉しくなってしまう。それはもちろん猫好きだからというのもあるが、旅先の街に溶け込んでいる彼らは、とても絵になるのである。
プラハから電車に乗って少し行くと、「Karlštejn(カールシュタイン)」駅に着く。ここからヴルタヴァ川を渡り、山に向かって歩いて行けば「Hrad Karlštejn(カールシュタイン城)」がそびえ立っている。プラハから日帰りで簡単に行ける、旧神聖ローマ皇帝の見事な居城だ。
川を渡り、城までの一本道に入ると左右にレストランや観光客向けの土産などの店が並び始める。当日は朝早かったせいで落ち着いた雰囲気をしており、店主たちが店を開ける準備をしていた。
その一角、アンティークを扱っている店先で、ふわふわの毛をした猫がじっとこちらを見ていた。番犬ならぬ「番猫」か。落ち着いた毛の色と威厳のある眼差しが、アンティークの中に溶け込んでいる。店が開いたら、どこか居心地の良い場所で眠っているのだろう。
そのまま真っ直ぐ進んでいくと、城への急勾配の道へとたどり着く。その坂道の隣にはレストランがあり、店の前に寝転がっていた毛の塊が動いたかと思うと、こちらに向かってきた。猫だ。
のしのしと歩いてきた彼女は、我々の前に来るといきなりごろりと横になった。随分と慣れたものである。道行く旅人たちに、幸せをお裾分けしてくれているのかもしれない。
場所は変わって、街全体が世界遺産となっている「Český Krumlov(チェスキークルムロフ)」でも、猫たちに出会えた。朝早く街を散歩していると、景色の良い公園に若い雄猫がいた。朝のグルーミングをしている。
我々が公園からの景色を撮っていると寄ってきて、すりすりと匂い付けしながら愛想を振りまいていた。やがて小雨が降ってきたので、一緒に木の下で雨宿りをする。旅人と猫が一緒に雨宿り。何とも言えない思い出だ。
しばらく彼は近所を案内するように側を歩いていたが、そろそろ朝ごはんなのだろう、最後に一度だけ振り向いて挨拶すると、家の中へと姿を消した。
世界遺産の街と猫。古い街並みに、彼らの姿はとてもよく馴染んでいた。
(田原昌)