新たな創作活動やビジネスが生まれる町を目指して。京都・旧五条楽園エリア活性化プロジェクト

京都市下京区五条周辺の菊浜エリアにおいて、再生・活性化を目的とした、今後30年間を目途とする長期プロジェクトが行われる。

この地にはかつて五条楽園という色街があり、そこには任天堂を創業した山内家の旧本社も残る。歴史を踏まえながら、新たな創作活動やビジネスが生まれる場所に再生するという当プロジェクト。古都保全の新しいスタイルという点からも注目したい。

かつての色街が、再生プロジェクトで生まれ変わる

菊浜・旧五条楽園エリアに残る貴重な町並み

高瀬川沿いに南北に走る木屋町通り。五条と七条の間に位置するのが菊浜エリアだ。

高瀬川は江戸初期に開削された運河。京都と伏見を結ぶ重要な水路として賑わい、菊浜周辺には問屋街や職人街が存在した。職人達の遊び場として、置き屋・お茶屋が建ち並ぶ花街・色街が形成され、五条楽園に発展する。

その歴史は平成まで続いた。1958年の売春防止法後は、花街としての体裁をとりながら、娼妓がいる街として存在。五条楽園は京都唯一の色街として、夜な夜なその怪しい煌めきを闇に灯していたが、2010年に完全に色街として終焉を迎えた。

写真:高野晃彰

そうした旧五条楽園だが、現在でも元遊郭の面影を色濃く残す建物が随所に残る。古い建築物が次々と姿を消していく京都にあって、歴史の重みを肌で感じられる貴重な町並みが残るエリアだ。

菊浜・旧五条楽園エリア再生計画

活性化プロジェクトを行う菊浜・旧五条楽園エリアには、創業当時の山内任天堂本社が残る。ここは山内家にとっては思い入れ深い土地。だからこそ、この地からイノベーション(*)を促進し、文化発展と地域貢献に寄与するための活動に取り組む。

プロジェクト推進のため同地の不動産取得を進めているが、現在所有している土地・建物は、初代山内房治郎が創業した山内房治郎商店があった土地や、過去に遊郭として使用されていた土地・建物などが含まれる。

そうした土地・建物が、かつてのイメージを引きずったまま廃退していくのを放置するのではなく、今後30年という時間をかけながら、クリエイター・アーティスト・研究者・起業家などの活動拠点に変えていく。

そして地域住民も含め、ここに暮らし・訪れる人々の憩いの場となる飲食・交流施設の整備も行っていく方針だ。

山内任天堂旧本社がホテル丸福樓として蘇る

同エリア内にある山内任天堂旧本社は1930年に竣工した歴史ある建物。世界的企業任天堂を生み出したレガシーとして、建築家・安藤忠雄氏の手によってリノベーション。ホテル「丸福樓」として営業を開始した。

建設当時の面影を色濃く残すモダンレトロな外観は、このエリアでひと際目を引く存在でありながら、街の雰囲気に溶け込んでいる。

この地は男たちの楽園ではあっても、一般には後ろめたい場所だった。

ひと昔前までは、地元の人々でさえ、恐ろしくて近づけないとされていた菊浜・旧五条楽園。今は、高瀬川の両岸に元遊郭やカフェー建築の意匠を活かした新しい店が建ち始めている。

陰の町から陽のあたる町へと変わりつつある当エリア。このプロジェクトがその動きにさらなる拍車をかけることを期待せずにはいられない。

山内財団公式HP:https://ymfd.org/
YN10公式HP:https://y-n10.com/

(高野晃彰)

*ビジネスモデルなどに新しい考え方や技術を取り入れ新たな価値を生み出し、社会にインパクトのある刷新・変革をもたらすこと。