20年度映画館・シネコン市場「鬼滅」なければ3分の1に縮小した可能性も

2020年度、コロナ禍に見舞われ大きな打撃を受けた日本の映画館・シネコン市場。その規模はどれくらいだったのか、帝国データバンクの調査から紹介しよう。

■前年度からは半減、過去10年で最少

2020年度の映画館・シネコン市場(事業者売上高ベース)は1600億円前後にとどまる見通しとなった。過去最高を記録した2019年度(3100億円)から半減となるほか、過去10年で最少を更新するなど、コロナ禍の影響が鮮明に。

映画館は、新型コロナの感染拡大、度重なる緊急事態宣言発出のなかで時短営業や休業を余儀なくされたことで売り上げの立たない期間が長期化。外出自粛による巣ごもり需要をとらえた動画配信サービスに鑑賞ニーズが流出したほか、営業の全面再開後も収容定員の大幅引き下げ、館内飲食の制限など、収益力の大幅低下によるダメージが広がった。

他方、地方や小規模シアターは全面休業などを免れ、またファミリー層の戻りが早かったことで比較的ダメージを軽減できたケースも。ただ、全体では興行収入が400億円を突破した「鬼滅の刃 無限列車編」のメガヒットによる恩恵が大きく、同作品がなかった場合、1000億円前後まで市場が縮小した可能性もあった。

■新たな取り組みも始まったが

イオンシネマでは、空調設備の強化や飛沫防護用のパーティション設置といった感染症対策を施すなどのニューアル工事や、新たにドライブインシアターを実施するなど、これまでになかった先進的な取り組みを進める企業もあった。

ただ、シネコンタイプの映画館が近年急速に数を増やし競争の激化で1スクリーンあたりの収益は悪化傾向で推移してきたなか、座席間隔を空けるなど収容人数が大きく制限されたことで、大型スクリーンによるスケールメリットが生かせない営業を強いられた。

加えて、アルコールなど利益率の高い飲食物も提供できないことで収益力はさらに悪化。多くの配給作品が公開延期となったことで来館訴求が出来なかった点も響いた。

■動画配信サービスとの共存は可能か?

21年度は大きく落ち込んだ前年から急速に回復する見込みだ。コロナワクチンの接種状況や政府方針に左右されるなど先行きは依然として不透明なものの、集客力が期待できる新作映画の公開が控えていることなどから相応の売り上げ確保に対する期待感も高く、市場全体では過去最高の19年度には届かないものの相応の規模に落ち着きそうだ。

興行収入が100億円を突破した「シン・エヴァンゲリオン劇場版」が好調なほか、今後も話題作の公開を年内に控えており、相応の集客が見込まれている。

一方で、これまでも普及が進んできたNetflixやHulu、Amazonプライムビデオといった動画配信サービスがコロナ禍で急速に台頭してきた。

総務省の各調査でも、二人以上世帯のうちダウンロード型の動画サービスなどはコロナ前に比べ急速に支出が増えた一方、映画館への支出は大幅に激減するなど、「映画は映画館で観る」という従来のライフスタイルの変化がコロナ禍でさらに進んだ。

既に経営体力を消耗し、コロナ以前の収益水準に戻れるかが不透明な映画館・シネコンにとっては、動画配信サービスは今後限りあるユーザーを取り合う、共存不可能な競合相手となる可能性もある。そのため、いかに差別化や映画館の魅力訴求を行い、動画配信サービスに流出した鑑賞客の来館頻度を高められるかが、長期的に映画館・シネコン産業が生き残るカギとなってくる。

各映画館がコロナ後を見据えた集客戦略をどう打ち出していくのかが、今後最大の注目点となる。

(冨田格)