ファッションデザイナー×北欧家具が、織物の未来を考えさせる。
実に興味深い展示会が、11月18日(水)よりフリッツ・ハンセン青山本店で開催される。
■織物の未来を考える活動
「織物屋の試み展 其の二 ―ファッションデザイナー編―」と名付けられたこのイベントを仕掛けたのは、京都・西陣の川島織物セルコン。織物の未来と100年後の川島織物セルコンを考える活動のひとつとして企画されたものだ。
北欧家具メーカー フリッツ・ハンセンの代表作エッグチェアに、ファッションデザイナー 三原康裕 、クリステル・コーシェ 、ロク・ファンの三氏がファブリックデザインを手掛けた織物を貼り込んだ。三者三様の作品をご紹介しよう。
■「時を織り込む」という詩的で壮大なチャレンジ
「時の堆積」 三原康裕
川島織物セルコンのアーカイブから選びだした柄を、紋ビロード引箔の技術で表現。箔には漆を使い、塗っては剥がし、塗っては剥がし、という工程を繰り返し、美しいファブリックがあたかも朽ち果てたような、自然な経年変化が感じられるように仕上げた。
ヨーロッパより伝わり、17世紀頃から日本で制作されるようになった紋ビロード。立体的にパイル・ビロードで柄を表現できるのは、日本では川島織物セルコンのみだ。その紋ビロードの技術と、漆芸の伝統技術とを掛け合わせて出来上がったこのファブリックは、工芸品とも言えるような仕上がり。
■2つの異なる世界を繋ぎ合わせ新たな創造物を生み出す
「Paris Meets Kyoto」 クリステル・コーシェ
クリステル氏が得意とする “ジャージ素材をパッチワークのように嵌め合わせた作品” は、2つの異なる世界のものを繋ぎ合わせることによって新しいクリエーションを生み出していく、という自身のキャリアを象徴する手法。
日本の文化や京都にも愛着を持っているクリステル氏は、このファブリックを「日本の伝統技術で作りたい」と考えた。そこで、日本とヨーロッパから50着近くのユーズドサッカージャージを収集、小さく切り裂いて和紙に並べて貼り、それを糸状に裁断して織り込むという引箔の技法でファブリックを完成させた。
ユーズドサッカージャージを用いるためには、伸縮性を調整するなど伝統技法を新しい見解で見直すことが必要であり、それこそが「伝統工芸品というのは常にモダンなものになりうる」というコーシェの意図を再現することになった。
■有機的な自然の世界そのものをファブリックで表現する
「自然と本能 ~森を織る~」 ロク・ファン
通常、平面で美しさを表現していく綴織という手法を、立体的に再構築していくため、何度も試行錯誤を繰り返していった。また、自然への敬意の表現には、サステナブルという概念に基づきカーテン生地の生産時に生じる端材などをはじめ、これまで使わなかった素材も選りすぐって使用した。
「日々の喧騒から離れ、静寂さや穏やかさを慈しむ、自然の中にある心地よさ」そのものを生み出す、という難題に挑戦したファブリックは、見た目からだけではなく、椅子自体がまるで森の木々や苔そのものような触り心地に完成した。
織物のデザインと技法で、同じチェアーが全く異なる表情を見せる。その違い、実際に見てみたくなるものだ。
織物屋の試み展 其の二 ― ファッションデザイナー編
会期:11月18日(水)~11月29日(日)
時間:12:00 – 18:00
会場:フリッツ・ハンセン青山本店(東京都港区北青山3-10-11 1F& B1)
公式サイト:https://www.kawashimaselkon.co.jp/event/kokoromi2020/
(冨田格)