「マニア心をそそられる趣向が凝らされており、古典作品へのオマージュも好印象」「“日常の謎”系の本格ミステリーの連作で、ラストがきれいに決まっている」「キャラクターが非常に魅力的」「全体を通しての空気感、安定感が秀逸」など選考委員からの高い評価を得て、晴れて大賞を受賞。
宝島社が主催する、第21回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作『名探偵のままでいて』が1月7日(土)に発売される。
安楽椅子探偵が活躍する『名探偵のままでいて』
『名探偵のままでいて』は、レビー小体型認知症の祖父が安楽椅子探偵となり、孫娘の持ち込むさまざまな「謎」を次々と解決していく連作ミステリー。
孫娘として登場するのは、27歳の小学校教師・楓(かえで)。彼女の祖父は素晴らしく頭の切れる人物だったが、71歳となった現在、認知症を患い介護を受けていた。
「レビー小体型認知症」だったため、幼児退行するようなことはなかったものの、「青い虎が見える」といった幻視や記憶障害などの症状が現れていた。
しかし、楓がある時ちょっとした謎を持ち込むと、祖父はそれに対する鮮やかな解答を語ってくれたのだ。かつての知能と、レビー小体型認知症特有の症状とによって。
それ以降、楓は身辺で何か事件が起こると、祖父のところへ相談に行くようになったのだが、やがて彼女の人生に関わる重大な事件が起こる。
構成作家・小西マサテルさんによるミステリー小説
本作においては、そのストーリーはもちろんだが、著者の経歴や執筆のきっかけにも注目したい。
『名探偵のままでいて』を書き上げたのは、人気ラジオ番組の構成作家でもある小西マサテルさん。
小西さんは、高校時代にウッチャンナンチャンの南原清隆さんが部長だった落語研究会に入部。そのまま南原さんの背中を追うように上京して芸人としての道を歩み、放送作家としてのキャリアを築いた経歴を持つ。
レビー小体型認知症の父の存在がきっかけに
小西さんによると、本作の執筆のきっかけは、長らくレビー小体型認知症を患っていた父の存在だったそうだ。
中学時代に母を亡くし、父一人・子一人で育った小西さんだったが、大人になったあるとき、電話でのお父さんの言葉に違和感を感じた。結果、これはレビー小体型認知症のためであると知るのだが、その典型的な症状に幻視(幻覚)があると知ることに。
亡くなった小西さんのお父さん自身が、自分が認知症であることを自覚していたという。だが、すべてがわからなくなるということはなく、ときおりの会話の中では小西さん自身より“冴えている”発言も多くあったというのだ。
認知症であっても理知的な部分が多くあることを知った小西さんは、こうした認知症への正しい理解を世間に広げたいと考えるようになった。
今作では、レビー小体型認知症の祖父にあえて名前を付けず、普通名詞を使用している。これは祖父(探偵)を、昔話で「おじいさん、おばあさん」と言われるような誰にでも仮託できる存在にしたかったからだ。
さまざまな想いを込めて練り上げられた『名探偵のままでいて』。ミステリー小説としてはもちろん、こうした裏話まで知っておくと、いろいろな意味で楽しめそうだ。
宝島社の書籍詳細ページ:https://tkj.jp/book/?cd=TD037633&path=&s1=
(IKKI)