絵師であり、稀代のデザイナーでもあった葛飾北斎。かつて北斎が思い描きながら、原案で留まっていた「装飾櫛」を現代の宝飾職人が具現化した。
11月18日(金)よりフランス・アルザス地方のミュールーズ美術館「北斎と富士-子供のための北斎展」内で日本に先駆けて発表される。作品は購入も可能だ。
世界の美術界に影響を与えた葛飾北斎
1998年にアメリカのフォト・ジャーナル紙『LIFE』が選んだ「過去1000年の間で最も重要な人物」。ベスト100に選ばれた唯一の日本人が、葛飾北斎だ。
その名声は日本国内に留まらず、マネ、モネ、ゴッホ、セザンヌ、ルノアール、ドガ、ロートレック、ミュシャ等の印象派に多大な影響を与えたとされる。
ジャポニスム芸術の原点であり、フランスを発祥とする国際的な美術運動“アール・ヌーヴォー”の原動力と言っても過言ではない。
そんな北斎の残したデザインの中に、装飾櫛があった。当時は実現しなかったとされる幻の装飾櫛を、甲府の宝飾職人界の第一人者たちが具現化し、フランスで発表する。
研究機関、宝飾協会、職人による共同作業
装飾櫛の制作は、デザインの選定から完成まで約6か月もの期間を要した共同プロジェクトだ。完成した作品はそれぞれ「赤富士」「波」と名づけられた。
北斎研究の第一人者である国際北斎学会がデザインの意味や想いを伝え、甲府宝飾協会は職人の制作環境を整える。個々の職人は、自らの技術の粋を尽くして作品を完成させた。三者のうち、どこが欠けても実現しなかったプロジェクトだ。
柳本 知一氏による「赤富士」
「赤富士」を手がけたのは、彫金職人の柳本 知一(やなぎもと ともかず)氏。伝統的な金工技術である彫金技法(*1)と、ワックスカービング技法(*2)を組み合わせることで独自のスタイルを構築し、造形力を活かしたジュエリーを製作している。
今回制作した「赤富士」では、継承者が途絶えつつある薄肉彫りの技術を駆使したタガネでの打ち出しにより、赤富士の雄大さや立体感を表現しているという。
山口 忠道氏による「波」
一方の「波」は、写実的な造形表現を得意とする山口 忠道(やまぐち ただみち)氏の作品。躍動感のある生き物の姿などを貴金属で表現する一方、ハイジュエリーの製作も手がける。
CADデータでの作業が主流になる中、人間の手でしか表すことができない表現方法を追い求め、独自の技法を確立してきた。
金属加工技術とワックス加工技術を掛け合わせることで、北斎の描く波の特徴を繊細ながら大胆に表現した。
世界に誇る日本の職人技術
作品は購入も可能だ。「赤富士」1,210,000円、「波」1,430,000円となっている。詳細は甲府宝飾協会に問い合わせを。
美術展は遠い地での開催だが、フランスの人々がどのような感想をもつのか興味深い。日本の職人の繊細な技術から生み出される作品は、世界に通用する芸術品と言えるだろう。
アルザスと日本の交流160周年記念事業「北斎と富士-子供のための北斎展」
会期:開催中~2023年3月12日(日)
会場:ミュールーズ壁紙美術館
国際北斎学会サイト(美術展についての問い合わせ先):https://artacademy.jp/
甲府宝飾協会サイト(作品についての問い合わせ先):https://kofu-houshoku.or.jp/
(SAYA)
*1 おもに鏨(タガネ)を使って金属を彫る技法
*2 ワックスで原型を製作し、金属を流し込む技法
※価格はすべて税込