豹変するSPORTモード
SPORTモードになった瞬間、エンジンサウンドが炸裂する。シフトスケジュールが変わり、パワーバンドである4,000回転以上を常にキープしようと、激しくシフトが変わるのだ。
「ヴァン、ヴァン、バババババ……」
コーナー手前でアクセルを緩め、ブレーキペダルに足をのせた瞬間、自動ブリッピングを行いエンジン回転数を高くキープする。そのブリッピングはけたたましく、室内だけではなく周囲にも存在感を激しくアピールする。
と同時に、軽快だったステアリングが重厚になり、ハンドルを切るのに相当な力が必要になり、まるでパワステがなくなったのではないかと錯覚するほどだ。
カーボンセラミックを採用するブレーキのストッピングパワーは強烈だ。少し足をペダルにのせただけでも制動力が立ち上がり、予想以上の減速をする。
パワーバンドに乗せたエンジンはアクセルに対して敏感に反応する。そして5.2リッターV10エンジンのパワーを4輪すべてで受け止め、すべて加速力へと昇華させるのだ。
ステアリングが重くなったとはいえ、そのハンドリングは従順そのもの。ドライバーの意思通りにラインをトレース、特に素晴らしいのがサスペンションとタイヤだ。
前モデルのガヤルドや、V12エンジン搭載のアヴェンタドールではより硬いサスペンションセッティングであったために、再舗装の凸凹やうねり、橋の継ぎ目といった局面では上下に揺さぶられピッチングが激しくなったり、場合によってはロードホールディングを失うような感覚を受けたものだが、このウラカンは重厚感があり、路面にタイヤが押さえつけられている感覚が強い。
しかし実際にはウラカンはカーボンとアルミのハイブリッドシャーシを採用したことから1,422kgとこの手のモデルとしては最軽量であり、重いから路面に貼りついているわけではない。
マグネト・レオロジック・サスペンションと呼ばれる磁性流体を使って減衰力をアクティブにコントロールするサスペンションの恩恵が深い。その結果、4WDの駆動力を最適に4輪に配する電子制御4WDとあいまって、常に4輪が正確に路面とコンタクトし続けているのだ。その結果突き上げも少なく、想像以上に乗り心地がよい。
走りが安定しているから、安心感も高く、実際に安全である。現代のスーパーカーは安全・安心・そして快適なのだ。
日常性の高まったウラカン
誰でも簡単に運転できるウラカンは、走る場所を選ばない。高速道路だけではなく、一般道、峠道。どこを走っても非日常性により高揚感をもたらしてくれる。
唯一気になるのはその車高の低さ。張り出したフロントスポイラーは段差や踏切で擦りそうだ。しかし標準でフロントの車高を数センチ上げられることができるため、日常性能も上がっている。
さすがにこのウラカンでコンビニの駐車場に入ることは少ないだろうが、しかしいざというときに寄ることは造作もない。
トランクはフロントに最小限のスペースが、そしてシート裏に棚がありビジネスバッグを置くことが可能だ。ゴルフバッグは入らないが、ゴルフなぞしている場合ではない、これはランボルギーニだからだ。
燃費も特筆すべき特徴だ。アイドリングストップ機構がつき、カタログ燃費で8km/Lのウラカンは街中で約6km/L、高速道路では9km/L~10km/Lほど走るという。5,200ccエンジンとして考えると、スーパーな燃費だ。
非日常的な値段だが
日常性が高まったスーパーカーであるが、残念ながらプライスタグは依然、非日常的だ。
税込2,970万円からだが、オプションをつけた総支払額は約3,500万円ほどになるといい、この価格帯はもはや一戸建てやマンションといっていいだろう。スーパーカーを買うことが世間から支持されない理由も高額なことにある。
しかしだ。スーパーカー世代の我々が、小学生のときにマイホームに憧れたであろうか?
否。我々が憧れたのはフェラーリであり、ランボルギーニなのだ。
そして時代は変わった。土地や家を持っていれば値段があがる時代ではない。少子高齢化、人口減少の世の中でマイホームといった住宅は供給過多となり、一部の優良物件を除いて値崩れしていく時代だ。
そんな中、スーパーカーはどうだろう。実はここ数年、中古相場が上がっている。実際の例をあげると4,500万円で購入したランボルギーニ・アヴェンタドールをウラカンを買うために手放したところ、同じ値段で売れたという。
これはどういうことか?乗っただけお得だったということだ。
ウラカンも人気のため現在18ヵ月待ちで、すぐ乗りたいユーザーが待っており、高く売れるという。またポルシェやフェラーリの相場も上昇しており、中古フェラーリ専門店では売れ過ぎて売るタマがない、と嘆くほどだ。
これは世界経済が大きく作用している。
世界経済は膨張しており、特に成長激しい中国の「爆買い」は何も家電に限ったことではない。土地やスーパーカーまでその手は及んでいるのだ。その結果、数の限られたスーパーカー、ビンテージカーの値段は上昇傾向が続いている。
確かにスーパーカーは非日常であり、高額だ。一般人が買うのは非常識だと思われている。
実は若者がクルマに興味を持たなくなったように、お金持ちもクルマから興味が離れている。確かに過去、資産家や、成り上がりにスーパーカーが売れた時代があったが、今やスーパーカーは、本当にクルマが好きな人が買うクルマになった。
そんな時代だからこそ、好きな人にぜひ体験してもらいたいのがスーパーカーである。
世界中広しといえど、サラリーマンでもローンを組んでスーパーカーを買えるのは日本だけである。
子供の頃憧れたのはマイホームか、スーパーカーなのか。ローンを組んで毎月払う人生であるなら、どちらがいいのか。ぜひ自問自答してほしい。
(野間 恒毅)
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