塗師・赤木明登の工房へ。そして優しい能登のイタリアン【LEXUS×VOGUE JAPAN アメイジング エクスペリエンス in 金沢レポートその3】

 

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輪島塗の塗師・赤木明登氏の工房に一歩踏み入れると、そこはまるで大樹のウロの中のような“木”の世界だ。先の工程を待つ器と様々な道具達が所狭しと並んでいる。
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各地から輪島塗の世界に飛び込んで来たというお弟子さん達が、赤木氏のデザインした器に下塗りを施す様子を見せていただいた。輪島塗は、もともと丈夫さが本懐なのだそうだ。下地に使われる『輪島地の粉』が硬質ではげにくい性質をつくっていく。
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若き職人達の横顔には、工芸への厳しい決意が宿る。

赤木氏もまた若き日に東京を離れ輪島にやってきたそうだ。彼自身の親方は「生活の中の漆」に光をあて工芸界に革命をもたらした名人、角偉三郎氏。角作品については、とかくその無骨さや力強さが語られるが、赤木氏は生き生きとした表情に心を打たれたという。おしゃべりな器、セクシーな器、どっしり無口な器。彼は師の作品の数々について、まるで命あるもののように語った。

そしていま赤木氏自身の手が生み出す器もまた、プレーンな線と面の美しさの中に有機的な輝きを感じるような「使う漆器」である。
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赤木氏が輪島塗の世界に入ったころ、注目されていたのはきらびやかな装飾が施された余所行きの漆器たちであったという。その中で、日々ともに生活をする器、持っていることも忘れてしまうように人の手と親密に繋がる器をつくり続けてきた赤木氏の道程は決して平坦ではなかっただろう。
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現在、彼と彼の工房のスタイルは文化や食を愛する人々からの熱い指示を集めている。親方である彼が担当するのは“上塗り”という工程だ。女性の毛髪でつくられた筆を使って、漆器の表情をつくる。

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上塗りの一番の敵は埃である。徹底的な清掃をした部屋で作業してなお、器に付着する埃の一粒一粒を取り除く作業は不可欠だそうだ。その気の遠くなるような仕事を想像すると、彼の卓越したセンスや華やかな経歴のみを安易に語る意味は無いように感じられた。

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器のコンセプトやデザインのプロデューサーであり、工房のすべての仕事を統べるディレクターでもある彼は、また誰より地味な仕事を黙々と続ける一人の無骨な工匠であるのだ。

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見学の後は、工房の皆さんが伝統の祝い唄『輪島まだら』を披露してくれた。

「松にひな鶴 千歳の春は 岩や清水に 亀がすむ」

七・七・七・五という短い歌詞を、母音を長く伸ばしながら5分近くかけて唄う。輪島塗の職人が一人前になる“年季明け式”では、様々な職人達が集まりこの輪島まだらを唄うそうである。潮のうねりのように長く尾を引くその節回しと若き職人たちの厳粛な表情に、連綿と続く技術と人の営みを思う。

清々しいような懐かしいような余韻とともに工房を後にする。向かったのは赤木氏のゲストハウス。
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風通しの良い建物の1階は、畳敷きの大広間だ。親しい人達を招いて開かれる大宴会の様子を聞けば、謹厳な塗師の横顔とはまた別の、誰より洒脱で遊び上手な赤木氏の一面が顔を覗かせる。


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ゲストハウスの奥に入ると、吹き抜けの部屋に一面の書棚。足の裏に吸い付くような感触にふと床を見ると、一面の漆塗りである。建物のそこかしこには漆器が置かれ、2室ある寝室の浴室にもふんだんに漆が施されている。なんという贅沢。ここに招かれる客人たちを羨ましく思わずにはいられない。

最後に案内された茶室は、古い土蔵の2階にあった。暗がりの密室に腰をかがめて入ると、すべての音が消えたような、それでいてすべての密やかな音が聞こえてくるような不思議な感覚におそわれた。
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ここで一旦、赤木氏とはお別れに。ただし夫妻は今夜の我々の宿を訪ねてくれる予定でもある。彼らを囲む夕食を楽しみにまたロングドライブに出発する。

 

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波しぶきを真横に受けながら海沿いの道をたどり、期待の昼食は、“イタリアンの民宿”というユニークなコンセプトを持つ『ふらっと』で。以前、この建物は『さんなみ』という料理民宿だったそうだ。地の食材を使った宝物のような伝統食の数々は、グルマン達の間で伝説的に語られている。

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「父は完璧主義なんです。だから引退したんですよ」と『さんなみ』のご主人を語るのは、長女である智香子さん。現在の『ふらっと』は彼女と、その夫でシェフのベンジャミン・フラット氏が切り盛りしている。オーストラリア出身のシェフが腕をふるうイタリア料理は、能登の食材をふんだんに取り入れたもの。

伝統の魚醤「いしり」の風味が、カボチャの甘みに一本筋を通すスープ。いしりをはじめとする様々な発酵食品や保存食は手づくりだ。イカスミのソースをたっぷり敷いた手打ちパスタは、食べ進めるうちにイカの風味が豊かに増していく。
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地の魚『なめらばちめ(キジハタ)』は、1人に1尾。さりげない味付けが白身のしとやかな旨さを感じさせてくれた。
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「イタリア料理というのは郷土料理なんです。イタリアンをつくるときに地元の食材を使うというのは、とても当たり前のこと」と夫妻は語った。無理な和洋折衷ではない、純正なイタリアンであり真っすぐな地元料理でもある品々に、あたたかな思想を感じた。

笑顔に見送られ、今夜の宿へ。北陸随一の古湯、山代温泉にむかって能登半島を一挙に縦断した。

 LEXUS AMAZING EXPERIENCE

(くぼきひろこ)

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