チェコ第2の都市・ブルノには、現代建築の至宝が遺されている。チェコにおいて現代建築としては唯一世界遺産にも登録されている「Villa Tugendhat(トゥーゲントハット邸)」だ。
第2次世界大戦より前の1928年にプランが決められたトゥーゲントハット邸だが、とてもそんな古い時代の建築とは思えないほど、実にモダンで機能的な邸宅である。
トゥーゲントハット夫妻と子供たちが住んだこの邸宅は、ドイツの建築家Ludwig Mies van der Rohe(ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ)の手による物で、当時としては非常に珍しい、画期的な機能を備えた建築物だった。
外観は直線的で、簡単に言うと直方体がいくつか重なったような形になっている。道路に面したエントランスは邸宅の2階部分に相当し、丘の斜面に沿うようにして1階部分が建つ。エントランスの反対側には緑豊かな庭が広がっており、様々な木も植えられている。
特徴的なのはリビングではないだろうか。2階から階段を下りてドアを開けると、開放的な空間が目の前に広がった。
広大なリビングルームはカーテンや大理石などを使って仕切られる形になっており、大きなガラス窓からは光が十分に注ぎ込む。目の前に広がる庭の緑が、癒やしを与えてくれる。
図書室にピアノ、庭を眺める事が出来る憩いのスペースなど、全てがつながっている開放感がありながらも、ちょっとした「仕切り」によってその空間が保たれている。また大きな窓はボタンひとつで上下に開くようになっており、庭越しにブルノの街を眺めながら風を取り込む事が出来るという、贅沢な仕掛けも用意されていた。
ダイニングも、ドアなどはなくリビングと空間が続く。半月状に木の壁で囲われたスペースに、巨大な丸いテーブルが中央に据えられている。その周りを囲んでの食事だったそうだ。
この丸いテーブルにも仕掛けがあり、ぐるりと回す事で3段階にサイズ調節が可能。これには驚かされた。思わず自分でも欲しくなる逸品だ。
新しいモダン住居の礎となったトゥーゲントハット邸。建築に興味がある人なら、必ず見ておきたい世界遺産である。
(田原昌)