1987年5月に河出書房新社より刊行された俵万智さんの歌集『サラダ記念日』が、今年、35周年を迎えた。現在も、その歌は時代を超えて愛され続け、累計発行部数は285万部*を突破している。
同書のこれまでの軌跡を、俵万智さんから寄せられたメッセージとともにたどってみよう。
社会現象にもなった『サラダ記念日』の“これまで”
『サラダ記念日』発売当時24歳、高校の国語科教師だった俵万智さんは、「与謝野晶子以来の大型新人類歌人」「天才歌人」と、瞬く間に大きな注目を集めた。
同年の新語・流行語大賞「新語部門・表現賞」を受賞し、同書が一大社会現象にまでなった時、観光バスが俵さんの勤務する高校の前でスピードを落として案内をしていたというエピソードからも、当時の熱狂ぶりがうかがわれる。
今では教科書にもその代表歌が掲載されるなど、「一冊で短歌を変えた」といわれるほどの衝撃をもたらした。
短歌を身近にした『サラダ記念日』の“これから”
2021年、俵さんは第6歌集『未来のサイズ』(KADOKAWA刊)で歌壇の最高峰とされる第55回迢空(ちょうくう)賞を受賞。また翌2022年には「現代短歌の魅力を伝え、すそ野を広げた創作活動」に対し、2021年度朝日賞を受賞した。
俵さんは、今でもさまざまな賞の選考委員や新聞歌壇の選者などを通して、短歌の魅力を伝える活動を続けている。
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」での放送や、日本テレビ系列「世界一受けたい授業」でも取り上げられるなど、今も注目され続ける『サラダ記念日』。今後はどのように愛され、年を重ねていくのだろうか。
時代を越えて新しい輪郭を持つ『サラダ記念日』
35回目のサラダ記念日にあたり、俵さんからメッセージが届いた。
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
「歌集『サラダ記念日』のタイトルの元になったこの一首、35年前には、どちらかというと下の句が注目された。『○○記念日』という語がちまたにあふれ、スポーツ紙の見出しにまで躍った。
それが最近では上の句が注目を集め『万智さんは、いいね!の元祖ですね』と言われている。こんなに『いいね』がポピュラーな表現になるとは、35年前には想像もつかないことだった。
時代という波をくぐりながら、多くの読者に出会いながら、短歌は生き続け、新しい輝きをもらうことができる。35年目の『サラダ記念日』は、どんな出会いをしてくれるだろうか。
ちなみにTwitterで『今はいいねの数を競うような風潮があるけれど、これはたった1つのいいねで幸せになれるという歌です』とつぶやいたら、1つどころか18万余りのいいねが付いた。いわゆる万バズというやつだ。SNS全盛の時代ではあるが、みんな、たった一つのいいねの大切さを感じ、求めているんだなあと思った」
同書は、音声で楽しめるオーディオブックとして、AmazonオーディオブックAudible(オーディブル)で7月12日(火)から配信を開始する。ナレーターは沢井真知さんだ。
時代が変わっても新たな魅力が感じられる同書は、いつまでも本棚に置いておきたくなる一冊になるだろう。
サラダ記念日
新装版:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309024882/
河出文庫:https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309402499/
AmazonオーディオブックAudible:https://www.audible.co.jp/pd/B09WTTX9V6
(hachi)
* 単行本403刷・251万5千部/文庫版63刷・33万5千部