2020年、コロナ禍の日本政府が支給した特別定額給付金10万円の家計消費に与える影響について研究した論文が発表された。
■主な研究結果をまとめる
国際ジャーナル『Covid Economics: Vetted and Real- Time Papers』に掲載のこの論文は、”Money Forward Lab” 研究員 兼田充氏、早稲田大学政治経済学術院准教授 久保田荘氏、クイーンズランド大学シニアレクチャラー 田中聡史氏のチームがまとめたものだ。
主な研究結果は、
・給付金が支給された週から数週間にわたり消費が増加した。また定義によるが、給付金のうち6%〜27%が消費として利用された
・労働所得の低い家計、また銀行預金などの流動資産を十分に保有していない家計は、他の家計に比べより多くの給付金を消費として利用した
・「食費と生活必需品」や「対面を伴うサービス」への支出は給付金支給後早い段階で反応がある一方、「耐久財」や「住宅ローン・家賃・保険などへの支払い」による支出は長期にわたり反応があるなど、カテゴリーごとに消費が大きく異なった
となっている。
■この調査の概要とは
海外にも国民に対する給付金支給を実施した例はあったが、多くの国では国民全員に対して一律に支給するのではなく所得制限を設けているため、⽇本のように同じ条件のもとで様々なグループに対して分析を⾏える研究は貴重な機会となった。
また、⽇本でも政府や金融機関の家計調査などにもとづいた研究はあるが、この調査は「マネーフォワード」が提供するお金の見える化サービス『マネーフォワード ME』のデータを用いることで、給付⾦や⽀出の種類の特定が可能であり、収支および資産の情報が⾃動的に集約されることから、より正確なデータにもとづき、精度の高い研究成果を得ることができる。
データの抽出期間は、以下の通り。
- 特別定額給付⾦の⽀給前後の期間、2020年3⽉から11⽉
- 所得を前年比較するため、2019年4⽉から9⽉
■研究成果をグラフで表示
特別定額給付金の支給時期
特別定額給付金の家計消費への影響
消費反応の相違
・労働所得水準の異なるグループにおける消費反応の相違
・流動資産を十分に保有しているかによる消費反応の相違
消費のカテゴリーごとの消費反応の相違
この研究では、給付金に対する「家計の限界消費性向」について、精度の高い推定値が得られた。これは、財政政策や金融政策を分析するための経済モデルにとって重要な指標となる。
この分野の研究の発展への貢献、また今後の経済政策の議論を行う上での重要なエビデンスとしての活用が期待されている。
お金の見える化サービス『マネーフォワード ME』:https://moneyforward.com/
(冨田格)