2000年代にアニメ化もされた漫画「MOONLIGHT MILE」(太田垣康男)をご存知だろうか?近未来の宇宙開発がテーマで、資源確保のために月を掘削し街を作っていく物語。
「いつかこんな時代が来るのかもな」
と思いながら読んでいたものだが、まさにそんな時代が足早にやってきていた。
月の「水資源」を軸とした宇宙インフラの構築を目指すispaceが、スタートアップ企業における製品の企画、開発やそれに伴う技術開発段階での投資ラウンドである「シリーズA」国内最高額となる101.5億円の資金調達を実現したというのだ。
■調達した資金でispaceは何を実行するのか?
今回の資金調達により、ispaceは民間では日本初となる、独自開発の月着陸船による「月周回」と「月面着陸」の2つの月探査ミッションを始動させる。
ispaceが独自で開発する月着陸船を2020年末までを目途に2回打ち上げる。
そのミッションは下記の2つ。
”Mission1”…2019年末頃に月周回軌道へ投入して軌道上からの月探査を行う。
“Mission2″…2020年末頃に月面に軟着陸して月面探査ローバーで月面探査を行う。
■月開発の今後
2040年の月。
1,000人の人が住み、年間10,000人が訪れる。
建設、エネルギー、鉄鋼、通信、運輸、農業、医療、そして月旅行など、月の「水資源」を軸とした宇宙インフラが構築されることが見込まれている。
「水資源」は、生物の生命維持や植物の植生に必要不可欠な要素であることに加えて、水素と酸素に分解すればロケットの燃料になる。
月で水資源を確保するということは、月面で人間が暮らすための重要な資源になるだけでなく、月でロケットの燃料を補給してから火星や小惑星などのさらに遠い天体に向かうこと可能にするということだ。
つまり、月が燃料補給基地として機能することで、地球から打ち上げられるロケットの燃料量が削減され、莫大な打ち上げコスト削減や燃料重量分のペイロード(貨物)の搭載が可能になる。
■Mission1&2の目的
今回発表する2つのミッションは、月の水資源を軸とした宇宙インフラの構築に必要となる「物資の月輸送」と、資源を含めた「月面探査の技術」を確立する出発点。
月面への着陸は、人類の歴史でも未だアメリカ、ロシア、中国の3つの国による国主導のミッションでしか実現されていない高度な技術である。
ispaceは、Mission1&2を新しい技術に挑戦する研究開発と位置付けており、同じ設計の月着陸船で、2019年末に「月周回軌道への投入」と、2020年末に「月面への軟着陸」の2段階に分けて実行する。
Mission1では月の周回軌道に確実に投入することを確認し、そこで得られたデータや経験をMission2の月着陸船の設計にフィードバックすることで、月面軟着陸に必要な技術を着実に確立していく計画だという。
■月着陸船のペイロード(貨物)スペースが目指すこと
この月着陸船には総重量30kgのペイロードが搭載可能だそうだ。
30kgのペイロードには、ispaceが新たに開発する小型軽量な月面探査ローバー2台も含まれ、この月面探査ローバーにもそれぞれ最大5kgのペイロードを搭載可能とする予定。
これらの月着陸船と月面探査ローバーのペイロードスペースを活用して、各国の宇宙機関や研究機関、大学、民間企業などに向けて月への物資輸送サービスを提供する。
月着陸船または月面探査ローバーにペイロードを搭載できることで、サイエンスのための研究機器や技術開発のための試験機器などを実際に月周回軌道上または月面で試験することができるようになる。
さらに、月周回と月面着陸ミッションで撮影する月周回軌道上や月面上の画像や映像をはじめ、放射線量・月資源・月環境の観測データ、地形・実験・技術などの研究開発データの提供を含め、企業のマーケティング活動でも活用できる月面データ提供サービスも行う予定だ。
ispaceは、これらのサービスを提供していくことで、既存の宇宙機関や大学、宇宙関連企業はもちろん、これまで宇宙に直接関わりのない企業や組織が、月を舞台に新しい取り組みを始めるきっかけを創り出そうとしている。
宇宙産業を代表する宇宙機関や大手企業、宇宙スタートアップ企業、そして非宇宙関連企業による化学反応を引き起こすことで、宇宙産業にこれまでなかった価値を創出し、宇宙の民主化をさらに進めていく考えだそうだ。
まさに近未来だったものが、目前に迫っていることを実感させられる。
ispaceが巨額の資金調達に成功したということは、絵に描いた餅でも、空想の産物でもなく、このプロジェクトが現実的であることの証だろう。
ispaceは、今後、日本のみならずグローバルでMission1およびMission2の協業企業を募っていくという。
日本初、民間開発の月着陸船によるispaceの月探査ミッションには期待が膨らむばかりだ。
株式会社ispace
http://ispace-inc.com/jpn
(いたる)