チェコ人はビールが大好きである。
一人当たりのビール消費量ランキング世界一は、ドイツでもなければアイルランドでもベルギーでもない。チェコだということをご存じだろうか。
そんなチェコの首都プラハに、ビール好きなら誰もが憧れるpivnice(パブ)「U Zlatého Tygra(金の虎)」がある。地元の人達が良く来るらしく、午後3時の開店直後から満席になってしまう程の人気店だ。
店の入り口には逞しい金色の虎のレリーフが掲げられ、店内の天井からは虎がぶら下がり、ビールサーバーにも虎が寝そべっている。
勿論コースターにも虎が描かれているという、とにかく虎づくしの店で面白い。
混むことが分かっていたので3時の開店に合わせて行ったのだが、想像以上の混みぶり。立ったままで2-3杯飲んで帰る人も居たほどだ。それでも何とか席を作ってもらい座った途端、メニューをもらう前にいきなりビールがドン、と置かれた。
これが「黄金の虎」での暗黙のルール。「席に着く=ビールを飲む」なのだ。
またある程度ビールを飲むと次をスタンバイしているので、タイミングを見計らって止めないと、出し続けてくるので要注意である。
それにしても泡がきめ細かくてビールが美しい。これ程までに揃った泡の細かさ、黄金色と白の比率はないだろう。
出されているのはチェコでよく飲まれているピルスナービールの「ウルケル」なのだが、どこの店よりも美しく、そして旨い。
一気に注ぐ一度つぎで泡を後乗せなどはせず、思ったほど盛大にこぼさず綺麗にまとめている。早くて的確で、それでいて美しい。
ビールを飲みながら、ビール腹のおやじが適当に注いでいるように見えるのだが、実は職人技なのだ。
「黄金の虎」は、アメリカのクリントン大統領とチェコの故ハヴェル大統領が共にビールを楽しんだパブでもある。
「ここがクリントンの座っていた席だよ」と、自慢げに自分の席を指すおじさん。彼の手元には、もう既に10杯以上飲んだ事を記した紙が置いてあった。1杯が0.5リットルなので、単純に計算しても5リットルを越えているではないか!
気が付いたら飲んでしまっているという、ある意味危険なパブなのだった。
(田原昌)