日本の正統派の絵画史を辻惟雄氏が解説。『最後に、絵を語る。奇想の美術史家の特別講義』が発売

東京大学・多摩美術大学名誉教授で美術史家・辻惟雄氏の最新刊『最後に、絵を語る。奇想の美術史家の特別講義』が、集英社より8月5日(月)に発売された。

同書は、正統と奇想の両方を見つめてきた日本美術史の第一人者が「やまと絵」「狩野派」、円山応挙という正統派の絵画の系譜について改めて語ったインタビュー集だ。

平安時代から近世初期までの日本絵画史の王道を解説

1970年刊の『奇想の系譜』において、江戸時代の岩佐又兵衛・伊藤若冲・曽我蕭白らを、エキセントリックで個性的な表現を特色とする「奇想の画家」としていち早く再評価した辻氏だが、空前の「若冲ブーム」を経て、日本美術における「奇想」に人気が偏りがちな昨今の状況に関しては、「ちょっと薬が効きすぎたか」という思いも抱いていたという。

個性際立つ江戸時代の「奇想の画家」たちにも、ルーツがある。『最後に、絵を語る。奇想の美術史家の特別講義』では、江戸時代以前の絵画史として「やまと絵」「狩野派」、若冲らの同時代人として円山応挙を取り上げ、日本絵画のメインストリームをわかりやすく紹介する。

「やまと絵」とは平安時代前期に成立し、折々に中国絵画からの刺激を受けつつ、独自の発展を遂げた日本的な絵画のこと。室町時代以降は土佐派などがリードした。

「狩野派」は、水墨画など中国絵画の様式をベースとし、「やまと絵」の要素も取り入れた「和漢融合」のスタイルを創出。室町時代以降、およそ400年にわたって権力者の御用を務める日本史上最大の画派となった。

江戸時代中期の円山応挙は、さらに多彩な絵画様式を「総合」し、写実的な独自の画風を生んで一世を風靡。近代京都画壇に連なる礎を築いた。応挙の章では、その高弟であり、「奇想の画家」に名を連ねる長沢芦雪も取り上げている。

絵入り本『かるかや』&東山魁夷の日本画も紹介

絵画史に続く「私の好きな絵」という章では、著者が偏愛する作品について語る。「奇想の画家」の面々は皆、大胆奇抜なイマジネーションの持ち主で、画力の高いテクニシャンだという。

そうした名人芸とはかけ離れた稚拙さにもかかわらず、強く心惹かれるというのが、室町時代の絵入り本『かるかや』だ。

また、極めて温雅な作風で知られる昭和の日本画家・東山魁夷の『残照』なども紹介しており、辻氏のちょっと意外な一面を知ることができる。

収録図版は100点超。表紙は円山応挙の『雲龍図屛風』

帯のコメントは、辻氏の東京大学教授時代の教え子である山下裕二氏によるもの。山下氏は、同書最終章の「師弟対談」にも参加する。前章までを振り返りつつ、ある作品をめぐっては「師弟論争」も勃発。気心の知れた二人の本音の美術トークが締めくくる。

表紙を飾るのは、円山応挙の『雲龍図屛風』。わき上がる雲の立体感、龍の体のリアルさを辻氏も高く評価する、応挙の水墨画の名作だ。

本文に収録した100点超の作品図版のうち、70点をカラーで掲載する。具体的な作例を通して、伝統的な絵画の見どころ、画家ごとの個性、絵画史のポイントを学べる一冊として注目したい。

最後に、絵を語る。奇想の美術史家の特別講義
著者:辻惟雄
発売日:8月5日(月)
定価:2,530円(税込)
判型:四六判
ページ数:224ページ
公式サイト:https://gakugei.shueisha.co.jp/kikan/978-4-08-781755-3.html

PR TIMES:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000607.000011454.html

(高野晃彰)