江戸・明治の市川團十郎が浮世絵の中で蘇る!奇跡的な色彩が乱舞する歌川派「浅井コレクション」の展覧会

12月13日(火)まで、歌舞伎役者・市川團十郎三代を描いた歌川派の浮世絵を集めた「市川團十郎と歌川派の絵師たち」展が、東京・有楽町朝日ギャラリーで開催されている。

日本有数の「浅井コレクション」から、50点余りを展示。江戸後期から明治にかけて活躍した七代目、八代目、九代目の團十郎の雄麗な姿を、歌川国貞(くにさだ)、歌川国芳(くによし)、豊原国周(くにちか)らが描いたものだ。

同展覧会は、東京・歌舞伎座で上演中の十三代目市川團十郎白猿の襲名披露興行を祝う企画でもある。

神聖視された市川團十郎

市川團十郎は江戸時代、単なる歌舞伎役者ではなく、成田不動尊の信仰、御霊信仰とも相まって「江戸の守護神」「役者の氏神」とみなされ、神仏の権化であるかのように神聖視されたという。超人的なキャラクターが登場する『荒事』の芸を支えたのも、團十郎自身の信仰心だったという研究者も。

その『荒事』を創始した元禄期の名優の初代、『助六』などを創演した二代目、寛政期の江戸歌舞伎を代表した五代目ら。時代が下って『歌舞伎十八番』を定めた七代目、早世した人気の美貌役者の八代目、「劇聖」とも称賛された九代目。そして、「花の海老さま」と呼ばれ、戦後歌舞伎を代表する人気役者だった十一代目、『歌舞伎十八番』の復活などに実直に取り組んだ十二代目も、また歴史に名を刻んでいる。

3人の浮世絵師による違いを楽しむ

今回展示される53点を見てみると、苦悶しつつも獅子奮迅の気迫で、江戸歌舞伎を支え抜いてきた七代目、八代目、九代目團十郎が躍動している。

浮世絵師は初代歌川国貞(後の三代目歌川豊国)、今人気沸騰中の歌川国芳、豊原国周ら。特に芝居絵・役者絵をよく描いた国貞、国周作品が目立つ。

粋や伊達、いなせといった江戸の美意識をビターな感覚で描いた国貞、「武者絵」で知られながらも、奇抜な構図とどこか丸みを帯びた現代のマンガに通じるタッチを見せた国芳。そして、西洋化が急ピッチで進む明治時代に、たっぷりと豊かに、かつ上品に仕上げた国周。こうした絵師の個性の差を見比べても面白い。

作品で注目したいのは、なんといっても十三代目の襲名披露興行の演目でもある『勧進帳』『助六』など『歌舞伎十八番』。八代目を描いた国貞の『助六』、九代目を描いた国周の『勧進帳』は必見だ。

豊原国周作「与衆同楽」(1887年)Ⓒクールアート東京 無断転載厳禁<br/> ※データ保護のため低画質で掲載

豊原国周作「与衆同楽」(1887年)Ⓒクールアート東京 無断転載厳禁
※データ保護のため低画質で掲載

貴重な浮世絵を所蔵する「浅井コレクション」

同展覧会の浮世絵は保存状態が極めて良好で、色彩が鮮烈だ。所蔵する「浅井コレクション」によると、今回の展示品の多くは、これまで世間のニーズがほとんどなかったため美術展などに出品した記録がなく、光や空気に接触することによる退色現象が起きていないのだそう。

「浅井コレクション」は、大阪で「浅井書店」を経営していた福井県出身の実業家、浅井勇助さんが創設。幕末・明治の激動期の気分を反映し、背景に物語を感じさせる作品を収集したという。

Ⓒクールアート東京 無断転載厳禁

Ⓒクールアート東京 無断転載厳禁

肉薄する危機に、したたかに、華やかに抵抗し、逆境をはねのけて乗り越え、再び歌舞伎を隆盛へと導いていった團十郎代々。歴史が語りかけるメッセージを、浮世絵を通して感じてみよう。

市川團十郎と歌川派の絵師たち
会期:11月26日(土)〜12月13日(火)※会期中無休
開館時間:11:00〜18:00 ※入場は閉館の30分前まで
会場:有楽町朝日ギャラリー
所在地:東京都千代田区有楽町2-5-1 有楽町マリオン11階
観覧料:1,500円(税込)
公式サイト:https://www.sunm.co.jp/dankuni/

(田原昌)