“胸がえぐられるような切なさ”を、感じたことがあるだろうか?
新潮社が、ガストン・ルルー作の『オペラ座の怪人』文庫版を5月30日(月)に刊行した。翻訳は村松潔氏が担当、京都大学人文科学研究所教授・岡田暁生氏の解説が掲載されている。
怪奇小説の先駆けと名高い世紀の名作
『オペラ座の怪人』は1909年、フランス「ル・ゴロワ紙」で発表された新聞小説。
事件や司法を取材する元新聞記者のガストン・ルルーが、疑似ノンフィクションとして書いた同作。そのスリリングさと劇的な結末が人気を博し、ミュージカルの大定番に。何度も映画化もされてきた。
ストーリーは、19世紀末のフランス、夜ごと流麗な舞台が繰り広げられるパリの花・オペラ座。その地下深くには、奇怪な事件を巻き起こす怪人がすみ着いていると噂されていた。
怪人は若く可憐な歌姫クリスティーヌに、夜ごと歌の手ほどきを授けていたが、歌姫に想いを寄せる幼馴染の子爵ラウル・シャニイとの仲に嫉妬し、クリスティーヌを誘拐。結婚を迫り、拒否すればオペラ座を爆破すると脅すのだった……。
怪奇小説の先駆けと名高い、世紀の名作である。
オペラ劇場の本質を捉えた“音楽の守護霊としての怪人”
以下、同書に収録されている、クラシック音楽やオペラに造詣が深い岡田教授の解説を、一部引用して紹介したい。
「オペラ劇場は火と水、天と地、彼方と此方の境目に建てられている。地面には地霊が生き埋めにされているかもしれない。
その怨念のうめき声は、空中楼閣のような劇場の華やかな舞台と共鳴し、プリマドンナが歌う鎮魂のメロディーへと浄化されて、その余韻はシャンデリア輝く丸天井の彼方へ消えていく。
ルルーの小説における『音楽の守護霊としての怪人』という設定は、オペラ劇場という場のこの神話的/呪術的な本質を見事についている」
胸がえぐられるような切なさが鮮烈に蘇る一冊
また、同書には、怪人の恋敵であるラウル・シャニイ子爵役でデビューを果たした俳優・石丸幹二氏の応援コメントも掲載されているので紹介しよう。石丸氏は、『オペラ座の怪人』の後日談となる舞台「ラブ・ネバー・ダイ」では、市村正親氏とWキャストで怪人役を演じている。
「怪人と子爵の凄まじき愛の戦い……。冴えわたる新訳であの世界観を堪能しました。この作品をはじめて読んだ時の、胸がえぐられるような切なさが鮮烈に蘇りました」
読んだことのある人も未読の人も、冴えわたる新訳で、世界観に酔いしれてみたい。
オペラ座の怪人
著者:ガストン・ルルー
訳者:村松潔
定価:990円(税込)
URL:https://ebook.shinchosha.co.jp/book/E053641/
(suzuki)