2月7日(月)発売の文芸誌「新潮」3月号に、ヴァージル・アブローの生前最後のロングインタビュー「黒人の正典(ブラック・カノン)を定義する」が掲載される(初出:仏『Vestoj』誌、平岩壮悟訳)。
西洋の価値基準の中で、黒人アーティストとして闘うことの孤独と誇りー自らを〈思想家〉と位置付けるヴァージルの哲学が結晶化したインタビューに注目だ。
世界的デザイナー、ヴァージル・アブローの軌跡
ヴァージル・アブローが2021年11月28日に心臓血管肉腫のため急逝した。
ヴァージルは盟友カニエ・ウェストのクリエイティブディレクションで頭角を現したのち、2013年に自身のファッションレーベル〈Off-White オフホワイト〉を創業。2018年には黒人初となる〈ルイ・ヴィトン〉メンズウェアのアーティスティック・ディレクターに就任した。
ヒップホップ的な手法をファッションに取り入れ、〝ストリートウェア〟の美学と精神をラグジュアリーの世界に持ち込んだ彼の功績は計り知れない。享年41歳だった。
ここに紹介するのは昨年秋、パリを拠点にしたファッション批評誌『Vestoj』に掲載されたヴァージル最後のロングインタビューである。
聞き手を務めたのは同誌の創刊者/編集長のアンニャ・アロノウスキー・クロンバーグ。彼女はこれまでにもシカゴ現代美術館で開催されたヴァージルの大規模個展Figures of Speechの公式インタビューをはじめ、何度もヴァージルと対話を重ねてきた人物である。
そうしたふたりの信頼のうちに語られるのは、ヴァージルが人知れず感じてきた孤独と葛藤、アフリカ系クリエイティブ・コミュニティに残そうとしている遺産(レガシー)についてだった―。
ヴァージルの主な発言
「ときどき〝たった独りだ〟と感じることがあります。はぐれ者か村にひとりでやってきた異邦人のような気分になるんです。パリの上流社会にいても、シカゴのサウスサイドにいても。ですが、疑うことは私の原動力にもなっています」
「階層化された白い業界のなかで、私は白人の正典にその名を刻もうとしているんです。ファッションやアートやデザインの世界では、白い西洋の価値基準がもはや分別できないほど当然視されています。普遍的な正典かのように見なされているんです。私はその発想をひっくり返したい」
「自分は一歩引いて、作品そのものに語らせたいんです。露骨な表現ではなく、細かなニュアンスをたっぷり孕んだものとして――。私は考えるための余白をつくりたい。思想家になりたいんです。自分のロジックを明らかにし、曖昧さを歓迎したいんです」
人種の壁と戦いながらも、世界的ブランドで重役を務め、その力を見せつけていったヴァージル・アプロー。彼の思想や葛藤、そして望みとは。新潮の最新号に注目したい。
新潮2022年3月号
本体定価:1200円(税込)
URL:https://www.shinchosha.co.jp/shincho/
(IKKI)