川原慶賀の屏風が2年の修復作業を終え、オランダ・ライデン国立民族学博物館で公開

専用ウェブアプリを通じて世界中どこでも高精細な屏風を鑑賞可能に。

ライデン国立民族学博物館は、江戸時代後期に長崎の出島で活躍した絵師・川原慶賀が1836年頃に制作した現存する唯一の屏風作品を、クラウドファンディングによる約2年の修復期間を経て公開。

あわせて、専用ウェブアプリ「出島エクスペリエンス」も開発し、AR(拡張現実)で世界中どこでもこの屏風を鑑賞できる環境を提供する。

■川原慶賀の唯一現存する屏風が2年の修復作業を終え、オランダ・ライデン国立民族学博物館で公開

同館は、医師として日本を訪れたフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(1796-1866)が、8年かけて蒐集した日本にまつわる民族学的価値のある約5,000点のコレクションが契機となり、1837年に開館した。

シーボルトの日本滞在中に、その画才を見出された川原慶賀(1786-1860)は、シーボルトのお抱え絵師として、出島を自由に出入りできる特権を与えられ、日本の自然と異国の文化を色彩豊かに描いてきた。

ヨーロッパ絵画の技法と日本の浮世絵を融合させた独自の写実画法による繊細な描写から、「カメラを持たない写真家」と称され、数多くの海外美術館でその作品が所蔵されている。また、昨今では大手オークションハウスにも出品されるなど、ヨーロッパを中心に海外で高い評価を得ている。

■現存する唯一の屏風作品が2年の月日をかけ修復完了

そのような中、同館は2018年に川原慶賀が1836年頃に描いた唯一の現存する屏風を取得。幅4m以上、高さ1.7mにもわたり、オランダ商館の建つ出島を画面中央に据えて長崎湾を一望できるこの傑作は、日本とオランダの特別な歴史的関係が見事に描かれている。

しかし、取得当時は非常に状態が悪かったため、当館は、クラウドファンディングを通じて、屏風修復のための資金援助を募った。その結果、京都の宇佐美修徳堂をはじめ、多数の日本の専門家協力によって、 2年の月日をかけて修復が完了した。

発見当時の屏風の様子。周囲を縁取る部分の損傷が特に激しい。

■ARで当時の長崎の世界観や川原慶賀の技法を体感できる「出島エクスペリエンス」について

また、屏風の公開とあわせて、専用ウェブアプリ「出島エクスペリエンス」を開発した。このアプリにより、スマートフォンやタブレットを使って、同館に訪問できなくとも、この貴重な屏風をはじめ、当館の日本コレクションに関する様々なストーリーを閲覧できる。アプリの中で最も特徴的なのが、AR(拡張現実)を活用したコンテンツ。これを使用すると、世界中どこででも、自分の身の回りの環境に実物大の屏風を配置し、川原慶賀の世界観を間近に体感することができる。

なお、「出島エクスペリエンス」は、オランダ国内でその年、最も優れた企画を実施した博物館や美術館を称えるアワード「MUSEUM PRIZE 2021」にノミネートされた。


ウェブアプリ「出島エクスペリエンス」のAR機能で撮影した様子

専用ウェブアプリを通じて高精細な屏風を鑑賞してみては。

博物館情報
開館時間:月曜休館、10時~17時
場所:Steenstraat 1, 2312 BS Leiden
公式HP:https://www.volkenkunde.nl/en

ARで屏風を鑑賞できる「出島エクスペリエンス」:https://deshima.volkenkunde.nl/
※ウェブブラウザのみで利用可、ダウンロード不要

(IKKI)