故郷を消してなるものか、という熱い想い。
■リテールデザイン部門で最優秀賞受賞
徳島県那賀郡那賀町木頭地区の地方創生に取り組むKITO DESIGN HOLDINGSグループが運営する「未来コンビニ」が、世界三大デザイン賞の一つであるドイツのデザインアワード「レッド・ドット・デザイン・アワード」2021年のリテールデザイン部門で、最も優れた革新的なデザインに贈られる最優秀賞「ベスト・オブ・ザ・ベスト」賞を受賞した。
徳島県那賀町旧木頭村出身で、電子書籍取次国内最大手の「メディアドゥ」代表取締役社長CEOの藤田恭嗣氏が手掛けるKITO DESIGN HOLDINGSグループは、「全ての人が笑顔になれる、奇跡の村を創る」をビジョンに掲げ、木頭におけるキャンプ場の再生や空き家の活用、特産の木頭ゆずを使用した加工品販売など、持続可能な故郷を作るための地方創生に取り組んでいる。
2020年4月、木頭地区の買い物環境の改善や、地元の子供たちの交流の場として「未来コンビニ」をオープンした。
■コンセプトは”世界一美しいコンビニ“
木頭地区は、西日本第二位の標高を誇る剣山をはじめ標高1,000mを超える山々に囲まれ、その自然の豊かさから別名「四国のチベット」とも呼ばれている。
木頭の“自然との共生”が、未来コンビニのデザインテーマの一つ。
デザインの軸となるY字のトラス構造は木頭の特産である柚子畑をイメージして設計、明るいイエローに塗り分けた。
道路に面した壁一面をガラス張りにし、店舗の外には、経年変化を楽しめる国産の松の木の素材でできた水はけの良いウッドチップを敷き詰めることで、雨の多い木頭の美しい自然との一体感を店内からも感じられる設計となっている。
店内の陳列棚は、子供たちや高齢者が商品を手に取りやすいよう一般のコンビニよりも低めに設計、これにより解放感のある空間を実現した。
■僻地にコンビニという大きな「挑戦」
木頭地区(旧・木頭村)は徳島県と高知県の県境に位置し、人口約1,000人で65歳以上が人口の過半数を占める”限界集落”。
「未来コンビニ」は、広大な村の最西端、居住人口がたった約200人の「北川集落」と呼ばれる地域に建築した。北川集落には商店が無く、最寄りのスーパーまで車で約1時間かかるなど、生活必需品の買い物が非常に不便な環境下から、いわゆる「買い物難民」が生まれていた。
地元の人々の買い物環境改善を目指すと同時に、この地で生まれ育った子供たちが多様な人生や感性に触れ合い未来への刺激を受けられる場となるように、との想いから「未来コンビニ」と名付けた。
僻地にコンビニという施設を新たに建築し、通り道にすぎなかった場所を「訪れるべき場所」に生まれ変わらせ、訪れる全ての人と地域とを繋ぎ、木頭の未来を紡ぐ。
この未来コンビニの取り組みは、過疎化・高齢化など地方が抱える課題に対する、木頭プロジェクトとしての大きな「挑戦」の一つだ。
手をこまねいていては消えてゆく故郷を「訪れるべき場所」に変えていこうという想いが、世界的な評価を呼んだ。このプロジェクトは、日本各地の限界集落を再生していくための参考になりそうだ。
未来コンビニ公式webサイト:https://mirai-cvs.jp/
KITO DESIGN HOLDIGNS:https://kito-dh.jp/
photo:Nacasa & Partners
(冨田格)