京阪電車に乗って京都から山を越え、滋賀県に入ると目の前に開けてくるのが琵琶湖。
日本橋から始まった東海道五十三の宿場町の最後、大津である。
京都から山を越えてすぐという地理的なことから作られたのが「琵琶湖疎水(そすい)」で、琵琶湖から引いた水は山を抜けて京都の蹴上へと流れていく。その山にあるのが「三井寺」であり、正式には「園城寺(おんじょうじ)」という天台宗の総本山である。
入り口に構えるのは、巨大な仁王門。かつてあったと思われる色は剥がれてしまっているが、木の重厚感が素晴らしい。
奥に進むと国宝の金堂がある。大きいが、都を思わせる雅な造りだ。
その右手には「近江八景」のひとつである「三井の晩鐘」で知られる梵鐘がある。荘厳な音色は「日本の残したい音風景百選」にも選ばれているほど。
この金堂の左手に、ほとんどくっつくようにしてあるのが「閼伽井屋(あかいや)」である。天智・天武・持統天皇の産湯に用いられた泉が小さなお堂の中にあり、今でもこんこんと湧いている。この泉こそが、「三井寺」の「三井」の名前の元だそうだ。
日が差し込み、崇高な雰囲気のお堂でしばし泉の湧く音を聞く。とても癒やされる音だった。
しばし音を聞いたら、今度は頭上に注目。日光東照宮の「眠り猫」などでも有名な、左甚五郎作の彫刻がある。
龍の彫刻の目に五寸釘が刺さっているのは、琵琶湖で暴れていた龍を鎮めるためなのだとか。
さて、次は「霊鐘堂」を訪れてみよう。奈良時代に作られたという梵鐘が置いてあるが、よく見ると表面が傷だらけ。
10世紀頃から激化していた比叡山延暦寺との抗争中、あの弁慶が鐘を奪って引きずっていったという伝説によるものだ。そのため「弁慶の引摺り鐘」と言われており、江戸の頃から観光スポットとなっていたらしい。
ここで、「弁慶の引摺り鐘」にちなんだおみくじを引いてみよう。
受付で鐘の形をした紙をもらい、近くの御手水に付けてみると数字が浮かび上がる。その数字を受付で告げると、みくじ紙と共に「三井寺百景」というカードをもらった。
三井寺の百の景色が描かれたもので、集めるためにはおみくじの1から100までを引かなくてはいけないのだから、コンプリートは非常に難しいだろう。それでも、お告げの紙だけではないのが記念になって嬉しい。
三井寺に来たら、寄って欲しいのが「西国十四番札所・観音堂」である。
しばし山を登っていくと、お堂の前に広がる琵琶湖疎水と琵琶湖の景色が眺められる。遠い向こうには、対岸の町までが見えて気持ちがいい。
京都市内からは地下鉄東西線で直通運転もある。ちょっとだけ足を伸ばして、琵琶湖の美しい景色と三井寺の趣ある境内を堪能してみよう。
(田原昌)