一言もしゃべらない男の子が主人公の絵本『やましたくんはしゃべらない』

この絵本は実話だ。
学校で一度もしゃべったことがない山下くんが授業参観で作文を発表することになり、ラジカセに録音した声を流して発表した。
幼稚園から9年間のだんまりゲームは卒業式に終了するはずだったが…。

ちょっと変、だけど気になる男の子のお話。

■作者・山下賢二さんの子ども時代のエピソードを絵本化
岩崎書店が発売した『やましたくんはしゃべらない』は、ちょっと変わった子を主人公にした絵本であり、“こんな子きらいかな?”シリーズの第二弾である。

作者の山下賢二さんは、幼稚園入園から小学校卒業までの9年間、人前では一言もしゃべらなかった。
きっかけは、幼稚園の入園日。先生から「お名前言えるかな?」と促されたことに端を発している。
恥ずかしかったのもあると思うが、自己紹介にというものになぜか憮然としてしまい、それ以来、家ではペラペラ話すのに、家の外では一切声を出さない生活を送ることとなったのだった。

『やましたくんはしゃべらない』中面

<ストーリー>
一言もしゃべらない不思議な男の子・やましたくんの学校生活を、クラスメイトの女の子目線で綴っている。
クラスに、ちょっとかわった男の子がいる。小学校に入学した時から、今まで一言もしゃべったことがない山下くん。その子の声を聞いた友だちは、誰ひとりいない。


山下くんは一言もしゃべらないけれど、授業中ずっとふざけているし、合唱コンクールでは口パクで歌う。しゃべらないけれど、友達もたくさんいる。


ある日、授業参観の作文発表で、山下くんはラジカセを持ってきた。テープの中に吹き込んだ声で、山下くんは作文を読んだ。そして、卒業式がきた…。

■「こんな子いたら、どうする?」の問いかけに…

話さない子もしくは話せない子が、自分のクラスにいたら、どうだろう。
どう接する? どうやって仲間になる?
絵本ではあまりメインになることのない、ちょっと嫌われそうな子を主人公にし、その子たちが、どういう行動をし、周囲はどう感じているかを描いている。ともすると、嫌われそうな子どもたちを、「排除」「矯正」するのではなく、「どう受け入れるか」考える一つのきっかけとなることを願っている。

そして、絵本の山下くんは、言葉こそ発しないが、クラスメイトと良好なコミュニケーションをとっている。しかし、家庭では問題なくおしゃべりするのに学校や公共の場所など、特定の場面では話せない/話さない「緘黙症(かんもくしょう)」「場面緘黙症」と呼ばれる言語の理解や発語は正常であるのに、ことばによる表現ができず沈黙を続ける状態の子どもがおり、学校で孤立することも少なくないのだ。「話さない」のではなく「話せない」子もいることを知る機会をこの本は提供している。

個性を重視する教育の在り方が提言されてから久しい。

にもかかわらず、同調圧力が、大人だけでなく、子どもにまで影響をおよぼしている。

そんな時代からこそ「息苦しさ」「生き辛さ」を感じている子どもを理解するためにも、ぜひ読んでほしい。

【書籍情報】
書名:『やましたくんはしゃべらない』

作者:山下賢二
画家:中田いくみ
定価:本体1,600円+税
岩崎書店HP https://bit.ly/2RKm9la

山下賢二「やましたくんはしゃべらないトークショー」
本書発売を記念して、「しゃべらないやましたくん」が復活。筆談で雄弁にトークを繰り広げる。
【日 時】2018年12月15日(土)18:00~
イベント詳細はコチラ https://bit.ly/2qHBwzb

(Y.FUKADA)