ドロップアウトした少年が、捨て犬を訓練することで成長していく、ある少年院の取り組み

ペットブームと言われる昨今、私たち人間がこんなにも動物に魅了されるのはなぜだろう?欧米諸国では、病気の治療に動物を介在させるアニマルアシステッドセラピー(動物介在療法)が医療として確立されている。ペット先進国といわれるドイツでは、殆どの病院で動物介在療法が実施されているし、アメリカでは、体調が悪い患者に対して「犬を飼いなさい」という処方が公的に認められているという。


アメリカの刑務所においては、受刑者に動物に触れ合いながら社会復帰を目指すプログラムが多く実施されており受刑者が保護犬のケアやトレーニングを通じて犬と共に成長していく「プリズン・ドッグ・プログラム」がその代表格である。

千葉県に在る八街少年院では2014年から日本で初めて「GMaC(ジーマック)」(Give Me a Chance(ギヴ・ミー・ア・チャンス=ぼくにチャンスをが由来)と呼ばれるプログラムを取り入れている。3ヵ月に渡り、非行をおこして少年院に送られた少年たちが動物愛護センターなどに保護された「保護犬」を「家庭犬」として家族に迎え入れてもらえるようにトレーニングする。

発売中の『ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発』(講談社刊、大塚敦子著)は、犬との触れ合いを通じて、一度は社会からドロップアウトした少年たちの成長を綴っている。

少年リョウ(仮名)は、18歳のときに振り込め詐欺グループに加わり、だまし取った金を持ち逃げした者たちを追いかけて暴行するなどし、八街少年院に来ることになった。

それまで人を信頼できず、心を開かなかったリョウだが、担当したロンという犬をトレーニングするうちに「犬には心を開ける」と素直な感情や表情を自然と見せるようになった。出院した彼は、会社を立ち上げ少年院や刑務所を出た人たちの社会復帰を応援する「協力雇用主」になっているという。

「GMaC(ジーマック)」に参加することになった「保護犬」も、少年達と同じように複雑な経緯を抱えた犬たち。少年たちはこのプログラムを通じて、弱いものを守る優しさ、忍耐強さ、責任感、愛情・・・彼らがこれまで出会えなかった感情や経験を得ているのかもしれない。

 

ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発

大塚敦子/著

講談社

定価:本体1300円(税別)

 

 

(Y.Mackenzie)