ドイツやオーストリアなど、ヨーロッパ各地を結ぶ路線が走るチェコの「Praha Hlavní Nádraží(プラハ中央駅)」。多くの観光客も利用するこの駅には、隠れた名所がある。
列車に乗ろうとして慌てているとつい見逃してしまうのだが、ホームに上がる階段とは別に上の階へと導くエレベーターが存在する。そこを上がると、天井の高い、ドーム状の空間が広がっている。改修工事の終わった、旧改札口である。
ドームの裾部分には、チェコにある地域(市)の紋章が色鮮やかに並ぶ。例えば、3つの塔が描かれている城の城門から腕が伸び、剣を構えている紋章がある。赤を背景として金色の城が目立つ意匠だが、これがプラハ市の紋章だ。マンホールなどにも描かれている紋章なので、街中でもよく目にする。
正面部分は元々改札口だった場所で、見事なレリーフや彫刻がなされている。Mucha(ムハ、ミュシャ)を生んだ国、チェコならではのアールヌーボー様式で実に豪華だ。
そして改札口の横に並んでいるのは、昔券売所として人々が列を成していた場所である。今では一部分がカフェになっており、プラハ駅でのんびり列車を待つ人々の格好の場所となっている。
反対側の天井部分を見上げると、美しいステンドグラスがはめ込まれている。ガラス細工を得意とする、ボヘミアンガラスを生んだ国らしい装飾だ。チェコの技術と芸術が、ここに集約されていると言って良いのではないだろうか。
残念ながら現存していないが、東京駅にあるステーションホテルの内装は、あの広島県物産陳列館(現原爆ドーム)を設計したチェコ人のヤン・レッツェルである。チェコ人の美的感覚が、東京駅とプラハ駅に共通しているのかと思うと、なかなか感慨深い。
列車に乗る時間に余裕を持って、是非この美しい駅の内装を見て欲しい。チェコの芸術を間近に感じてもらえることだろう。
(田原昌)