【インタビュー】100分の1ミリの世界で美しさを追求するセイコーの時計デザイン、そのこだわりを聞く

日本を代表する時計メーカーであるセイコーウオッチが、“時の記念日”である6月10日(土)より、デザインに対するこだわりを発信するウェブサイト『by Seiko watch design』をオープンした。

これまでセイコーは、その高い技術力と精緻なモノづくりによって、様々な利用シーンに応える高品質な時計を数多く世界へと送り出してきた。そのクオリティの高さと機能性はもはや誰もが知るところだろう。しかし、そのセイコーが時計デザインについても強いこだわりを持って時計づくりに取り組んでいることは、どれくらい知られているだろうか。

『by Seiko watch design』は、これまで培ってきたセイコーのデザインに対するエピソードや秘話を余すことなく伝えることで、ユーザーにセイコーの時計が持つ新たな魅力に関心を持ってもらうことを目的としているという。

機能性を追求することで生み出される、美しいデザイン

セイコーには、フラッグシップモデルとして1960年から同社腕時計の最高峰として確固たるブランドを築いてきた「グランドセイコー」、2012年に登場し世界中にファンを生み出した世界初のGPSソーラーウオッチ「セイコー アストロン」をはじめ、様々な腕時計のラインナップを展開しているが、それらが持つ魅力のひとつが、機能性を追求したことで生まれる美しさ、つまり“機能美”だ。

1960年の初代モデルを進化したデザインと新たな素材を用いて現代的にアレンジした初代グランドセイコー リミテッドコレクション2017 「現代デザイン」

セイコーウオッチ デザイン統括部の部長である佐藤紳二氏は「セイコーの時計は機能美に対するこだわりは強い。文字盤の視認性など時計メーカーとしての基本を追求し、品質の良い時計を生み出すことがマニュファクチュールとして大切にしていることであり、これがセイコーのデザイン品質を生み出している」と語る。

マニュファクチュールという言葉は聞き慣れないかもしれないが、これはムーブメントの設計から開発、製造、組立、調整、検査、出荷といった時計作りの工程を一貫して自社で行うメーカーを指す。時計作りのすべてを知っているメーカーだからこそ、機能とデザインを高次元で融合した高品質な時計を生み出すことができるのだ。「お客様の満足につながる品質とモノづくり、そしてデザインは、すべて繋がっている」(佐藤氏)。

佐藤氏は、この機能美へのこだわりについて「機能性を考えて造形を追求すると、結果的にそれは美しさへと繋がる。美しさの定義は感性によって異なるものなのかもしれないが、“絶対的な美しさ”というものは時計のみならず様々なモノのデザインに必ず存在すると考えており、セイコーの時計にとっても美しさを生み出す“時計の黄金比”は様々な要素で存在している。それが“セイコーらしいデザイン”を生み出しているのではないか」と語る。

セイコーには様々なラインナップの時計があるが、その共通項として「グランドセイコー」のデザイン上の基本指針“セイコースタイル”をはじめ、様々なデザイン上のルールが存在しているのだという。時計としての絶対的な美しさやセイコーのブランドアイデンティティを追求しながら、それを個々の製品の個性へと落とし込んでいくのが、セイコーのデザインなのだ。

こうしたセイコーのデザインへのこだわりは、『by Seiko watch design』に公開されている『虫の視点で、時計をデザインする』という久保進一郎氏のコンテンツで垣間見ることができる。セイコーのデザイン哲学をデザイナーの開発秘話と共に紹介する内容で、「グランドセイコー」のデザインを例にわずか0.01ミリ(100分の1ミリ)単位という人の目にはわからないほどのスケールで文字盤上の様々なパーツのデザインにこだわっていることを“虫の視点でデザインする”と表現している。

50ミリにも満たない小さな時計の中で、肉眼ではわからないほどの緻密さを追求してデザインや設計を行う。これが「グランドセイコー」の時計作りなのだ。「顕微鏡で拡大して見ても、ゆがみがなく時計として成立する。

「グランドセイコー」のデザインでは、100分の1ミリ単位というわずかな寸法でデザインされたインデックスが作る影が、一切の狂いなく奥行き感や質感を生み出している。こうした細かなこだわりが時計の質感を高め、使う人の感性に訴える。デザインは時計に魂を吹き込む重要な作業だ」(佐藤氏)。

「グランドセイコー」は100分の1ミリにこだわることで、高い視認性とデザインの上質感を生み出す

■“時計を持つということとは何か”を考え、使う人の立場に立ったデザインを

加えて、時計というものは、正確に時を知らせるという役割だけでなく、持つ人の気持ちを昂らせたり、時計そのものに人生のストーリーが重なったり、様々な価値を持った存在だ。セイコーの時計作りにとっては、こうした使う人の立場にたったこだわりも欠かせない重要なものだという。

この点について、デザイン統括部の文珠川 智氏は「セイコーの時計作りは利用シーンからデザインする工業製品としての側面だけでなく、使う人の心を動かすエモーショナルな質感を追求するというアートの側面も重要な要素だ。製品の数だけデザインのストーリーが生まれるという点では、ファッションデザインに近い部分もある」と語り、また同じくデザイン統括部の鎌田淳一氏は「身に着けた人を輝かせるデザイン、着けた人の気持ちを高揚させるデザインを追求している」と語る。

セイコーは“人々にとって、時計を持つということはどういうことなのか”という命題を常に考え、精緻なモノづくりによる上質感やエモーショナルな要素をデザインへのこだわりという形で表現しているのだ。

こうしたこだわりは、特に「グランドセイコー」のデザインにおいても表現されている。「グランドセイコー」はビジネスシーン向けのシンプルなデザインであっても、実はそのケースなどの外装にも強いこだわりが込められているのだという。

佐藤氏によると、グランドセイコーの外装は、高品質な素材を職人が手作業で研磨しており、もし表面に傷が付いても、再研磨することで何度でもリフレッシュできるように作られているのだ。「グランドセイコーは子の代、孫の代に受け継いで、何十年という単位で長く愛用してほしいという考えのもとでデザインしている」(佐藤氏)。

■セイコーの時計デザインが持つストーリーを伝えていきたい

このほどオープンしたウェブサイト『by Seiko watch design』では、こうしたセイコーの時計のデザインに対するフィロソフィーやこだわりを様々なエピソードと共に発信していくという。

この狙いについて「このウェブサイトを通じて、セイコーの時計デザインが持っているストーリーや時計の作り手の思いを伝えていきたい。私たちが取り組んでいるデザインに対するこだわりを知ってもらうことで、自分が持っているセイコーの時計の良さや価値を再発見してもらえればと思いますし、持っていない方には興味を持ってもらえれば」と佐藤氏は語る。

既にセイコーの社内リサーチや過去の製品に関する資料などを基に、膨大な量のコンテンツの“ネタ”が集まっているのだという。これから現行製品だけでなく過去のセイコーのデザインの歴史をも紐解きながら、様々なコンテンツを順次公開してセイコーのこだわりを明らかにしていく。佐藤氏は「どんな製品であっても、デザイナーは色々なことを考え、手を動かしてデザインを生み出す。そこには、必ずどんなことでも意味があり、理由がある。それを素直に言語化して発信していきたい」と今後の展開について抱負を語る。

これまでの長い歴史の中で膨大な数のモデルを生み出してきたセイコーの時計デザイン、そこにどのような“秘話”があるのか、これから明らかになるエピソードを楽しみにしたいところだ。

■by Seiko watch design ウェブサイト

https://www.seiko-design.com/index.html