チェコのプラハ城と旧市街の間を流れるヴルタヴァ(モルダウ)川。その両岸を結びつけている重厚な石の橋が「Karlův most(カレル橋)」である。
名前の通り、神聖ローマ帝国皇帝・カレル4世(カール4世)によって15世紀初めに完成した石橋だ。当時はプラハ城へと向かう唯一の橋で、厳重な塔が両側に建てられている。
プラハ観光の目玉であり、昼間は大勢の観光客でにぎわう。
露店や大道芸人も集まり、人々は思い思いに記念品を買い求めている。それでもごった返さないのは、許可制で出店数を限り、秩序を守っているからだろう。
店に並ぶ絵や写真などを見せてもらいながら、ぶらりと石橋を渡るのも楽しい。
昼間のうちに見て頂きたいものに、聖人像がある。カレル橋の欄干には左右15体ずつ、合計30体もの聖人像が据えられている。
「ヤン・ネポムツキー像」のレリーフに触ると運が良くなるといった逸話があるが、うち1体は日本にもなじみ深い人物だ。
戦国時代に日本へキリスト教を広めるべくやって来た、フランシスコ・ザビエルである。
彼の像の足元に居る人物の1人は、髷(まげ)を結っているように見える。日本人だと言われているが、果たして本当かは分からない。
夕方を過ぎると店は閉じ、暗くなれば観光客も一気に減ってしまう。この時間のカレル橋には暖かい色の街灯が点き、ロマンチックな雰囲気を醸し出す。
対岸のプラハ城がライトアップされると、ヴルタヴァ川の輝く水面に幻想的な絵となって浮かび上がる。「これぞ神聖ローマ帝国の首都だ」と感動を覚えずにはいられない。
同じく早朝のカレル橋も人が少なくていい。地元の人たちが犬を散歩させているのを見ながら、人の波など気にせずにゆったりと渡ることが出来る。
季節にもよるが、カレル橋の旧市街側から日が昇るので、これも一見の価値があるとお勧めしたい。
塔の門から差し込んでくる朝日の輝き、水鳥たちの鳴き声。
絵画の世界に入り込んでしまったような美しさに息を呑み、しばし時が過ぎるのを忘れてしまうほどだった。
(田原昌)