『The tailor makes the man.』ということわざがある。日本語では「馬子にも衣装」にあてはめられることが多いが、直訳では「仕立て屋が人をつくる」だ。
子供ではない“人”あるいは“男”として社会的な影響力を持とうとするとき、第一の武器は洋服なのである。誰と出会い、どう扱われるか。スーツの持つパワーは計り知れない。
■合わないスーツは男の価値を下げる
ダブついた肩口や、隙間の空いた襟元、胴体から浮いた大きなスーツは、体の貧弱さを浮き彫りにする。一言で言うなら「昭和のサラリーマン」あるは「いかにも吊るし」の風情だ。
逆もまた然り。スリムなスーツが流行ではあるが、小さすぎるジャケットの背中に横ジワを寄せ、パツパツのお尻をさらして歩く“イケメン”は滑稽でしかない。……滑稽はちょっと言い過ぎたかもしれないが、少なくともビジネスシーンで着るものではないということを、大人の男なら理解すべきである。
■背中のシワの罪深さ
体に合ったスーツは、男の背中はゆったりとたくましく見せる。しかし肩幅が余っているジャケットでは、背中に縦じわがよる。肩幅が足りない場合は横じわがよる。美しくない。寄っていいしわは、体の動きと自然に連動する美しいしわだけである。
■シャツが少し見える袖口
袖丈が長過ぎてシャツが隠れている人を良く見かけるが、これは野暮の代表格。
理想は、腕を下に降ろしたときにシャツの袖が1cm程度出ている状態だ。既製服でも袖丈のお直し代は安くないが、そんなところをケチるくらいならTシャツで出歩けばよろしい。
■上質の生地とは何か
“細い糸”で“密度の高い”生地は高級とされている。細い糸は軽さと柔らかい肌触りを、密な織りは丈夫さを実現してくれる。
見た目でいうなら、上品な光沢感と滑らかさがポイントだ。ブランド生地も良いが、自分の手と目で運命の生地を探すのもまた楽しい。
■あなどれないボタンの存在感
スーツの良し悪しが意外と簡単に分かってしまうのがボタンの質感だ。高級なスーツに使われるボタンの代表は、バッファローの角を加工した水牛ボタンや椰子の種からつくられるナットボタン。
安い既製服ではこれらに似せてつくられたボタンが用いられるが、質感はプラスティッキーで、素人目にも明らかな違いがあるので要注意。
■男を上げる仕立て服
手っ取り早く男を上げるなら「自分に合った洋服をつくる」こと。もちろんフルオーダーは理想的だ。1人の職人との長い対話の中でつくるスーツは、男のスタイルと物語の結晶である。
しかし、これは高い。
そこで毎日のスーツにもこだわるビジネスパーソンに人気なのが、イージーオーダーやパターンオーダーだ。仮縫いのあるオーダーメイドには及ばずとも、主要な部分はすべて自分のサイズでつくられ、フィット感は既製品とは段違い。ディテールに細かい指定ができる店も多い。
■仕立て服はダサい、はもう古い
もちろんアルマーニなどデザイナーズブランドの既製服はスタイリッシュだ。デザインの洗練、また生地の品質やクラフトマンシップの確立といった意味でも、最高の1着は確実にある。
ただし最高のブランドのレディーメードは、それに合う体型や品格を要求するものでもある。
『良いもの』の定義がより個人的になってきた昨今、スーツのオーダーが見直されてきているのは自然な流れでもある。
仕立て服を、クラシックなデザイン一辺倒で古くさいと思っている人も多いだろう。しかし、もはやその考えは古いのだ。クラシックながらダブつきを抑えた古くさくないスーツ、あるいは流行のスリムでも美しく体に添わせることで品格を備えたスーツ。そんな“ちょうど良さ”や、身近に息づくような高級感を実現するのが、気の合うテーラーやフィッターの存在なのだ。